ト書きなし文学シリーズ1 いつも来る客

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店員(女子バイト)「いらっしゃい・・・ま、せ」 客(眼鏡小太り)「はぁ、暑いねぇ。冬が終わったみたいだ」 店員「とっくに終わってます」 客「ええっ!マジですか。僕には連絡なかったけどな。どうなってるんだ、いまの岸田内閣は」 店員「お客様」 客「はい」 店員「毎日ご来店していただいてこう言うのもなんですが、これまで一度として、1時間以内にオーダーを決められたことはありませんので、今日は3分以内でお願いします、それと、お名前、住所、電話番号、LINEのIDは言っていただく必要はありません。もう悪夢を見るほど聞かされていますので。では後ほど」 客「ちょ、ちょっと行かないでくださいよ。あなたがそばにいても決められないのに、僕1人でどうやってオーダーを決めろって言うんですか。まだ僕、36歳ですよ」 店員「充分、決められます。では」 客「ちょ、ちょっ!好きな花と将来何になりたいかはお伝えしてないですよぉーっ!えー、行っちゃうし、困ったなぁ。ケータイで日本人のカフェオーダートップ10でも調べてみるか」 店員「お決まりになりました?おまけして5分待ちましたが」 客「5分っていったら、ぬるーいお湯でカップ麺は茹であがりませんよ」 店員「なぜ熱湯にしない。で、ご注文は?」 客「僕が優柔不断だってことは、あなたは身に沁みてわかっているでしょう」 店員「嫌というほど、というより、腹が立つほど、が正確ですね」 客「じゃあ、5分だなんて、酷ですよ」 店員「では、こうしたらどうですか。目を瞑って指をさしたものを注文する、というのは。天のお導きオーダーシステム」 客「おあお!すごい。あなたをこれからグルと呼んでいいですか」 店員「迷惑です」 客「じゃあ、天のお導きオーダーシステムを、全員一致ということで、導入してみます!」 店員「けっこう背後霊いるんですね」 客「まず、目を瞑るんですね。できるかな」 店員「できなかったらとっくに失明してます」 客「はい、瞑りました!僕すごーい!!」 店員「それで人差しでメニューを指差す。簡単ですよね」 客「すんげぇ、めっちゃテンションあがるぅ!」 店員「私はダダ下がりしてます。じゃあ、どうぞ」 客「はいっ!よーし、これだ!あっ、冷たい!!」 店員「・・・氷の入ったコップに、指突っ込まれています」 客「な、なぁるほど。冷たいわけだ。え、いや待てよ」 店員「どうしました?」 客「天のお導きオーダーシステムで、氷の入ったコップを指差したってことは?」 店員「ことは?」 客「オーダーは、氷の入った」 店員「それは無料です。では私がお客様の手をメニューの上に誘導しますので、それで指差してください」 客「え、ええっ?!そ、それってふたりの手がふれあうってことですか?」 店員「いまトイレ掃除に使う厚でのゴム手袋をつけてきますので」 客「えーっ、生がいいのにぃ」 店員「はい、ゴム手袋を二重につけてきました。手をメニューの上に置きますよ」 客「うわ、ゴム手の上からでもあなたの体温が僕に伝わってきます」 店員「私の二の腕の鳥肌をお見せできないのが大変残念です」 客「ん、待てよ。これで子供ができるってことは」 店員「医学的には完全にゼロです」 客「僕はやぶさかではないですよ。男らしく、認知します!」 店員「私は身の毛もよだつほど嫌です。はい、では指を置いてください」 客「よーし、清水の舞台から飛び降りる気持ちで、指差します!えいやっと!!」 店員「あー」 客「決まりました?」 店員「お品書き、という文字を奇跡的に指差しています。その下です。もう一度、お願いします」 客「ふぅ、ヒリヒリしますね」 店員「イライラします」 客「よーし、それでは。天の神よ、私にお力を与えたもうことなかれ!えいやっと!」 店員「はぁ、なるほど」 客「もう目を開けてもよろしいですか、グル」 店員「2度とそう呼んだら出禁にしますよ。目を開けてけっこうです」 客「ドキドキしちゃう!カフェってこれだから人気なんですね」 店員「完全に誤解です」 客「えっ、メニューにありましたこれ」 店員「新メニューですね」 客「豪華 鯛の兜煮・・・」 店員「まさかですが、神のお導きですので」 客「いやこれ、3800円って、高いなぁ」 店員「鯛だけに」 客「アイスコーヒーじゃだめですか」 店員「決めらるかーい!」          【了】
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