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医務室のベッドに新堂を寝かせ、知久拓馬は番犬のようにその側に座っていた。鎮痛薬が効いてきたのか、やっと寝息が聞こえてきた。汗がひどく、何度も冷たいタオルで拭う。
ぬるくなったタオルを交換しに洗面台へ向かうと、ガラッと扉が開き、君蔵が入ってきた。
「君蔵ッ!」
聞きたいことがたくさんある。詰め寄るが、するりとかわされた。手にしていたタオルも、いつの間にかなくなっている。
君蔵は空いているベッドへ向かうと、シャッと後ろ手にカーテンを閉め、閉じこもった。
「お前っ、他の参加者にっ、カミソリ使って傷つけたって本当なのかッ!」
「来るなッ!」
怒鳴られ、カーテンの前で足が止まる。
「説明する……から、来るな……入ってくるなッ!」
怯えるような声音に訝った。二日前の、シャワールームで口を犯されていた姿を思い出す。
「また、八角に何かされたのか」
「……絆創膏、くれ」
ガラス棚を探し、箱ごと絆創膏をカーテンの隙間から差し入れた。掴まれたが、知久は力を抜かずに言った。
「どこ怪我した」
「なんでそんなこと言わなくちゃいけないんだッ!」
「言えない場所か」
パシッと箱を奪われ、気配が遠のく。
「他の参加者にしたこと、アレ本当なのか」
「本当だ。新堂さんを勝たせるために、俺がやった」
「新堂さんはそれを被って、酷い目にあったんだぞ!」
「……反省してる」
「他の参加者に対しては」
「なんとも思わない」
無情な言葉に、虚しさのようなものが込み上げてきた。彼は優しいはずなのだ。新堂を気遣い、知久の足が吐瀉物で汚れないよう、手で退けた。なのに暴力的で容赦ない。極端すぎて心配になる。
「……怒らないのか」
頼りない声で問われ、やるせなくなった。
「……柔道部員としては、ふざけんじゃねぇって思う。お前の行動のせいで、部の評判が落ちたんだ。もっと考えて行動しろ」
これは自分にも言えることだなと、言いながら思った。
「でも友達としては……そういう行動に出るお前の方が心配だ」
「友達……可愛らしい響きだな」
笑いを含んだ声。茶化されたと思って、カッと耳たぶが熱くなった。
「いちいち反応すんな。そうやって馬鹿にする方がガキくさいぞ」
「一体いつ俺たちは友達になったんだ?」
カチンときて、無視して新堂のベッドへ戻った。君蔵は新堂の様子を見にくるかと思ったが、そのうち勝手に出ていった。
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