あの日の約束は

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約束をした。 「いつか、絶対また会おう。大人になったら探しに行くから、だから―」 幼なじみだった男の子。中学3年に進級する春、突然家族の仕事の都合で引越しが決まった私に、彼が言った。 「また会えたら、付き合ってよ」 それから8回季節は巡って、私は今日、大学を卒業した。 大学は地元でも、引越した先の地方でもなく、東京を選んで一人暮らしをしている。 無性に寂しくなる度にあの約束を思い出して、いつか会ったときガッカリされないようにと、それだけを糧に頑張ってきた。 けど。 「そろそろ、かな……」 咲き誇る桜を1人で眺めながら、ポツリと呟く。 少し前、同じ学科の男子に告白された。 それを断った私に、約束の事を知っている親友が言ったのだ。 「約束ってそればっかりじゃなくて、そろそろ前向かなくていいの?」 親友は、少し物言いがきつい時はあるが、誰かのことを真っ直ぐに想える人だ。その親友が言うのだし、自分自身も本当は感じていた。 本当にまた会えるの?もし会えたとしても、それが10年とか、もっと後だったら? そんなに時間が経っても私は彼を好きでいられる? 正直、自信はなかった。もう8年も経ったのだ。 カバンから、8年前は持っていなかったスマホを取りだした。 SNSアプリを開く。 もう何度繰り返した作業だろうか、彼の名前で検索をかけた。 そこに出るのはいつも、該当する結果はありません、の文字で…… 「……っ!!」 初めて見る結果に、思わずスマホを落としそうになった。 彼の名前と完全に一致するアカウントがある。 いつできたのだろうか。最後に検索したのは…… 動揺で頭が回らなくなる。 震える指でアカウントを押そうとするも、あと一歩の勇気が出ない。 ふいにざあっと強い風が吹いて、飛ばされてしばうのではないかと思った。 胸を潰すのは大きな期待。でも、彼ではない可能性もある訳で、不安も緊張も感じる。 「これで、最後」 呟いて深呼吸し、アカウントをタップした。 当たり障りのない自己紹介文には、彼に繋がる情報が沢山あり、いっそう胸が高鳴る。 けど、最後の文を見て、冷水をあびせられたような気がした。 「約束をした人へ。ずっと見つけられなくてごめん。お互い、もう忘れて前に進もう。勝手なことばっかでごめん、それから本当にありがとう」 息が止まった。 やっと可能性を見つけたのに。また会えるかもと期待したばかりなのに、終わりは突然だった。 また、風が吹く。舞い散る桜を呆然と眺めながら、どうしても1人だ。 泣いてしまいそうになって、唇を噛んだ。 「酷いよ……」 そっちから言い出した約束のくせに、勝手に終わらせてしまうなんて酷い。こんな形で伝えてくるなんて酷い。最後まで優しいなんて酷い。 こんなに好きにさせるなんて、酷すぎる。 「青春っ、返せ……!」 呟いて、自分自身に苦笑した。 確かに、約束に縋って執着していたかもしれない。けど、確かに大好きだったのだ。 桜を見上げて、落ちてくる花びらに手をかざした。 「さよなら……」 今このアカウントにメッセージを送れば、もしかしたら、まだ。 でも、きっと彼も悩んで前を向こうと決めたのだ。私も、もう歩きだそう。 突然、スマホが震えた。今の私の、1番大切な友達からメッセージが来ている。 それには返信せず、電話をかけた。 『はーい。どしたの?』 その声を聞いた途端、こらえていた涙が溢れた。 「わたし、っ……!」 声が震えて上手く伝えられない。そんな私に彼女は驚きながらもゆっくり話を聞いてくれた。 大丈夫だ。私は1人じゃない。 これから、ちゃんと前を向いて、未来へ歩いていく。だから、大丈夫。  でも、今日くらい、泣いてもいいよね。
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