天の恋を晴れ雨に

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 彼の名前は風待群雨と言う。それにはきちんとした理由が有る。別に親の付けたものでは無い。 「悪い。待たせたな。久し振り。こんな季節訪れたね」  走って群雨が近付いたのは水無海晴。こちらにもその名前の訳が有る。そして群雨と一緒で元々親なんていない。 「一年振りなのに、ムラサメはこれだからなー」  二人はとても仲が良さそうに思える話し方。そして見た目は高校かそれよりちょっと年上かと言う、どこから見てもカップル。だけどこれも違う。  不思議な二人なのだがとても重要なのでもある。 「カイセイだって昔っからずーっと違わないじゃないか」 「まーそーだね。あたしらなんて、いつまでもこんな二人なんじゃない?」  会話だって楽しそうだ。久し振りに会った二人は南の島の街中を歩きながら話している。 「これからは季節が南から進む。だから俺たちが必要なんだろうな」  もう寒いなんて思うことの少なくなった季節。この島では十分に暑くて街を歩く人たちは半袖姿になっている。  季節は巡る。冬は北から雪の便りが届く。そして明けることで皆が季節を理解している。次は南。夏を連れて来るのは梅雨前線。これが終わったら本格的に暑くなる。 「夏が訪れる。あたしらがそれを知らせないとだね」  海晴は元気でずっと楽しそうだった。これが群雨と会える季節だから。自分たちが活躍できる季節だから。必要な季節だから。  難しい話をする二人だったが、別にどうって行動をする訳でもない。  学生に近い年ごろだけど、学校には通わない。そして勤めに向かう素振りもなかった。 「南の島と言えばハンバーガーだな! チェーン店とはちと違う!」  昼前から海晴は独特の異国文化の象徴の店で楽しそうにハンバーガーを頬張ってる。横には当然ポテトとバケツのようなドリンクが並んでいた。 「ちゃんと仕事もしないとだよ」  対して群雨のほうは海晴のテンションに呆れながらポテトをちまちまと食べている。  二人が窓から眺める空は青い。それでもまだ夏の空じゃない。もっと青くて高くないとそうは呼べない。 「わかってるってば。あたしらの季節は雨だね。キラワレモンにならないと」  海晴には似合わない言葉。もっと名前みたいに晴れやかな人なのに。僕とは違って。 「もう畑を見て回んないとな」  まだ海晴の手には大きなハンバーガーが残っているが、群雨はそれを気にしないでポテトを口に放り込むと席を立った。  海晴は他の食べ物を抱えながら「ちょっと待ってよー」と群雨のことを追う。  二人が訪れたのは風に揺れるさとうきび畑。時間がはちみつのようにゆったりと流れている雰囲気があった。そこにいる農作業中のおばあさんまでのんびりだ。 「こんにちは。休憩中ですか?」  歩いて群雨が近付くと、座っていたおばあさんに話しかけた。 「うーん、ちょっとさー。雨が降らんかったから。お天道様の気まぐれに付き合ってるのさぁ」  つい昨日の先月は雨が少なかった。それは畑には良いことではない。雨は面倒なばかりではなかった。 「おばあちゃん。もう梅雨になるから雨が降るよ」  このくらいは予言ではない。毎年のこと。それでも海晴は確信をもって話していた。  二人はそれからの日々も村々を回って畑の様子や、漁師町では海の様子を聞く。 「今年のこの辺は雨が多いほうが良いんじゃない?」 「そうだな。五月の人たちは晴れを続けたみたいだから」  二人で郷土料理のそばを食べながら話す。  そしてお互いに納得した。  尊い天気が訪れてる。
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