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もう日々も十日以上が過ぎようとしていた。
これまではちょっと順調過ぎるぐらいだ。
遊ぶ時間くらいある。
海晴に限っては普段から遊んでいるのだが。
「夢の国だー!」
海晴が常々言うテーマパークに二人は立ち寄った。
もちろん海晴は楽しそうに走り回っている。その姿を見て群雨が微笑む。
「どうしたんだい! ムラサメ! あたしの望みを叶えるなんて」
存分に遊んでいて、その合間に海晴は暴力上等に群雨の背中を叩く。
「カイセイが毎年言うからだよ」
叩かれたことは気にしてない。痛いけど。海晴が楽しそうなら別に叩かれても僕は嬉しいから。このくらいは別に良いだろう。
「なんだい。ムラサメらしくないな。普段は真面目しか取り柄がないのにさ。もしかしてあたしに惚れたから、良いところを見せたいってか!」
バンバンと背中を叩きながら海晴が話す。よっぽど楽しいのだろう。テンションが高い。
だけど群雨はその時の海晴の言葉に怖いような真剣な目つきになってた。
「惚れてるよ。カイセイには昔っから」
「わかってよー。そんなことくらい!」
勇気を振り絞った群雨の言葉は、簡単にスルーされてしまった。
それからも夜のとばりが訪れるまで海晴は遊んだ。だけど群雨からみるとそのテンションの高さは普段とは違っている気がする。
「もう帰ろうか?」
時間の頃合い。全てのイベントが終わって、周りの人たちも段々と帰り始めてた。
群雨が出口のほうに向かうが、普段なら離れない海晴が立ち止まっていた。
「あの昼間の話はどういう意味なの?」
こんな海晴の話し方は聞いたことがない。視線だって僕のほうに向かってなくて地面ばかりを眺めてる。
「昼間の話って?」
「あたしに惚れてるってやつ。あれは単なる冗談だよね?」
顔を上げた海晴は笑っていた。ちょっと哀しそうに。
逆に群雨は難しい顔になってさっきの海晴みたいに視線を下げる。でも逃げない様に一つ深呼吸をして海晴に向かい合う。
「冗談なんかじゃないよ。俺はカイセイのことが好きだ。子供のころからずっと。毎年会えるのが楽しみだった」
愛の告白。甘酸っぱいものではない。真剣な群雨の想いだ。
群雨の言葉を聞いた海晴はニコッと笑った。あの哀しい笑顔で。次の刹那に涙を流す。
意味がわからなくて群雨がオロオロとすると「バカー」と海晴が泣き叫んだのを合図だったようにテーマパークの花火が打ちあがった。
二人が雷のような花火の音に気が付いて、花火を眺める。滲んだ海晴の瞳には煌びやかすぎる花火が写っていた。
なんでこんなことを君は言うんだろう。あたしはこれまでの関係でも良かった。そう自分を騙したかった。それなのに更に望んでしまう。辛いばかりなのに。
「この辺は遊びに寄っただけだから明日からは旅を再開しないとね」
軽いなんとなくの話は花火で消えてしまって二人は夢の国を離れる。
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