☆02. 理解不能

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 元気な子どもふたりに恵まれて、理解のある旦那さんもいて、会社や周りからは、仕事量を配慮して貰えて。なにもかも。わたしがいくら頑張っても手に入らないものを手にしているとばかり……。  するとわたしの思考を読んだかのように、栗沢さんは笑い、「あんま苦労話ばかりすると逆に、自慢話に聞こえることもあるだろうから外では控えているの」と茶目っ気たっぷりに微笑む。 「藍原さんも。慣れない環境で、新しい仕事しててしんどくなることもあるでしょう?」栗沢さんは立ち上がると椅子を戻し、「リンキン聴きたくなるくらいストレス溜まってるのなら、あたしでよかったら話くらい聞くわよ? また声かけるわね。ごゆっくり」  そう言ってひらひらと手を振り、その場を去る栗沢さんを見送り、……わたしは。  目に見えることばかりがすべてではない。  そんな当たり前のことを今更ながら、学習していた。わたしだってひとに言えない苦しみや秘密くらい、あるもの。それは、他人だっておんなじ。  きっと、課長だって――。  * * *  理解不能、と決めつけて思考を閉ざしてしまうと結局誰のことも理解出来ずに終わる。
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