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【寝覚め】
「起きてください。朝ですよ。」
私は聴き慣れた声に起こされる。優しい声音だが、そこに愛情があるのかは分からない。ただ、技術が進んだ現代ではAIの声質や見た目はヒトにそっくりで一見区別はつかない。異なる特徴といえば、ヒトよりも”賢く”、”丈夫だ”という点だ。前者については知識と経験の蓄積により、異常事態でさえもその賢さを発揮できる。また後者においては、労働力としてヒトの代わりにAIを使役する際により長持ちするように創られたため、非常に丈夫にできている。
そのため実践的なAIの登場以降、経済は彼らが担ってきた。もちろん最初は反対意見も多く出ていた。しかし多くの会社は利益を優先したのだ。購入で一時的に多額の資金が必要ではあるものの、長期的に見れば給料を払う必要も無いため、より多くの利益を得られると考えたからである。
実際、その采配は経済的に大当たりだった。しばらくしてAI導入の効果が顕著に現れたのだ。当初はすぐに壊れたり、仕事が無くなったヒトの生活費はどうなるのかという疑問が出ていた。だがその不安は幸いにも裏切られた。丈夫さは想像を超えており、長年経っても全く壊れる気配や劣化する予兆は見られなかった。また生活費も、AI導入税を政府が新たに課税していたのだが、AIの生産性が高かったこともあり仕事を奪われたヒトも十分な生活は保証された。
故に、最初は躊躇っていた企業もAIの導入を進め、全世界でそのトレンドは高まった。
「散歩に行きましょう。」
私は首にリードをつけられ、河川敷を散歩している。もちろんそれを握っているのはAIである。
ーーヒトは”創造力”は十分にあったが、”想像力”が足りなかったーー
仕事が無くなったヒトたちは、最初こそ危機感があったものの、働かずにお金を手に入れられる生活に堕落しきっていた。
このままではAIに支配されると感じた一部のヒトは、この状況を打破すべく反乱を企てた。AIの背中には非常停止ボタンがついていたが、全世界でそれをやるのは現実的に不可能に等しかった。そのため残された作戦としては、一番最初にAIを創造した博士の研究所にある『一斉停止ボタン』を押すことだった。彼らに悟られずにこれ実行するのは困難を極めたが、なんとか研究室に入り、ボタンを押すことができた。
しかしAIは全く停まることがなかった。AIはこの事態を予測し、既にボタンを無効化していたのだ。その賢さは、やはりヒトを上回っていた。絶望した彼らは、実力行使に出たが、もちろん敵うはずもなかった。AIはヒトよりも丈夫にできていたのだから。その屈強さに負けを認め、AIのペットとなる他なかった。
「ほら、取っておいで!」
私は河川敷を駆けていく。
その時、急に穴が現れ、私はそこに堕ちていく。
目が覚めて夢だと気づく。額には冷や汗が浮かんでいた。
悪い夢を見た私は、まどろみの中カーテンの隙間からゆらゆらと揺れる朝日を受けて、今の気分とは不釣り合いな眩しさに嫌悪感を感じた。
再び眠りに着こうとする私の耳に聴き慣れた声が届く。
「起きてください。朝ですよ。」
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