背中に結ぶ赤い襷

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「俺は襷を繋ぐのが好きで走ってるから」 「襷ねぇ。じゃあさ、剣道見に行って見れば?」 「剣道?」 「そうそう、ほらメーンとかコテーとか言うあれ」 「そりゃ知ってますよ。でもあれは個人競技でしょ」 医者は康二の訝しげな顔にいやいやと首を振る。 「君と同じ高校に通ってる子でさ、剣道部の部長の子も来てるんだよ、うちの整形外科に。今度の大会は団体戦だって言ってたよ」 へぇ、と聞き流して帰ってきたものの、剣道の試合に興味がわいた。団体戦があるとは知らなかった。 部長というのは、クラスメイトの千景のことだろう。 楚々とした飾りっ気のない少女だ。 部活を頑張っているのは知っていた。毎日重そうな黒くて四角いバックを肩からかけているので、何が入っているのか聞いたら「防具」だと言う。 運動部は朝が早い。翌日、靴箱で千景とばったり出くわしたので、話しかけた。 校外でも稽古をしているらしく、防具を持って登下校しているのだそうな。 「頑張ってるんだなぁ」 「それは康二くんもだよ。道場からよく見えるの。陸上部が外周してるところ」 とん、と胸を押されたような感覚になり千景の目を見る。 「毎日走ってるでしょう、学校の周り。私が素振りをする時に1番多く外周してるのは康二くんなんだよね」 「そうなんだ」 「うん。頑張ろうね、お互い」 「あぁ」 何でもないように頷いて、じんわりとなにか広がっていく。 「剣道の試合、見に行くわ今度。いろんな競技見るのも勉強になるし」 千景は一瞬沈黙したあと、トレードマークのポニーテールを揺らした。 「うん、いいね。剣道と陸上は、少し似たところがある気がする」
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