0人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺は襷を繋ぐのが好きで走ってるから」
「襷ねぇ。じゃあさ、剣道見に行って見れば?」
「剣道?」
「そうそう、ほらメーンとかコテーとか言うあれ」
「そりゃ知ってますよ。でもあれは個人競技でしょ」
医者は康二の訝しげな顔にいやいやと首を振る。
「君と同じ高校に通ってる子でさ、剣道部の部長の子も来てるんだよ、うちの整形外科に。今度の大会は団体戦だって言ってたよ」
へぇ、と聞き流して帰ってきたものの、剣道の試合に興味がわいた。団体戦があるとは知らなかった。
部長というのは、クラスメイトの千景のことだろう。
楚々とした飾りっ気のない少女だ。
部活を頑張っているのは知っていた。毎日重そうな黒くて四角いバックを肩からかけているので、何が入っているのか聞いたら「防具」だと言う。
運動部は朝が早い。翌日、靴箱で千景とばったり出くわしたので、話しかけた。
校外でも稽古をしているらしく、防具を持って登下校しているのだそうな。
「頑張ってるんだなぁ」
「それは康二くんもだよ。道場からよく見えるの。陸上部が外周してるところ」
とん、と胸を押されたような感覚になり千景の目を見る。
「毎日走ってるでしょう、学校の周り。私が素振りをする時に1番多く外周してるのは康二くんなんだよね」
「そうなんだ」
「うん。頑張ろうね、お互い」
「あぁ」
何でもないように頷いて、じんわりとなにか広がっていく。
「剣道の試合、見に行くわ今度。いろんな競技見るのも勉強になるし」
千景は一瞬沈黙したあと、トレードマークのポニーテールを揺らした。
「うん、いいね。剣道と陸上は、少し似たところがある気がする」
最初のコメントを投稿しよう!