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「七海(ななみ)、襷お願い」
「おっけー」
七海は千景の手から襷を受け取り、その背に回った。襷は胴の背中側、クロスしている紐に、はちまきよりは短い赤か白の布を結んで目印とする。
剣道の試合では、赤と白の旗を用い、一本取った者の襷と同じ色の旗が上がる仕組みで勝敗が分かるようになっているのだ。
道着の紐に始まり襷まで、剣道で身につけるものはほとんどが結ぶ作業を必要とする。
ひとつひとつ結んでいく中で、日常生活で散漫になっていた気持ちが剣道に向けてひとつに収束する感覚が好きだった。
「任せましたよ、大将」
襷をきゅっと締めた七海が、千景の肩を叩く。
「七海こそ、先鋒は頼みます」
個人競技に見える剣道にも団体戦が存在する。
試合自体が1対1で行われるのは個人戦と変わらないが、各校5名の代表者が順に戦い、その勝敗で勝った人数が多い方の勝利となる。
選出された5名は、最初に戦う者から先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と呼ぶ。
先鋒は切り込み隊長。スピードがあり、技の切れが良く1戦目で勝ってチームを鼓舞することを期待された選手が抜擢される。
千景が担う大将は、そのチームで最も強い選手が担うことが通例である。
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