6.

5/5
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
 十分くらい打ち合わせをしてから通話を切り、深呼吸してからもう1回TikTokを見た。  放っておくと、延々リピートされてしまうのがTikTokというもの。  嫌になったら、すぐ停止できるように親指は常にスタンバイしている。  心の準備を整えて、もう1回再生。  あーやっぱり気持ち悪い。  どうして自分はもっと普通の声じゃなかったのか。  生まれついた呪いはどうやったって消せるわけじゃないけれど、呪いを上書きすることはできるかもしれない。  そう思えた一つ目の理由は、橋本の存在だった。  静華は、それだけでも充分かもしれないと考えた。  けれど、怖くて見ることができなかったコメント欄を、勇気を出して開き、それが間違いだったことに気づいた。 「声優さんみたい」 「声、可愛い」 「本格的?」 「もっと聞きたい」  二つ目、三つ目と、たくさんの理由が並べられていた。  それを見た瞬間、橋本が言った生きる理由の本当の意味を、静華は理解できた気がした。  自分という存在にしか生み出せないものを認めてもらえた時、人は生きていても良いと許された気になるのかもしれない。  そんな、大それた事を考えたくなるくらい、静華の今日この時、十四年目にしてやっと「生きてて良かった」と初めて思えた。  静華は、それらのコメントをスクショしながら、橋本の家に初めて行った時と同じように、頬が痛くなるほど笑っていた。 END
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!