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十分くらい打ち合わせをしてから通話を切り、深呼吸してからもう1回TikTokを見た。
放っておくと、延々リピートされてしまうのがTikTokというもの。
嫌になったら、すぐ停止できるように親指は常にスタンバイしている。
心の準備を整えて、もう1回再生。
あーやっぱり気持ち悪い。
どうして自分はもっと普通の声じゃなかったのか。
生まれついた呪いはどうやったって消せるわけじゃないけれど、呪いを上書きすることはできるかもしれない。
そう思えた一つ目の理由は、橋本の存在だった。
静華は、それだけでも充分かもしれないと考えた。
けれど、怖くて見ることができなかったコメント欄を、勇気を出して開き、それが間違いだったことに気づいた。
「声優さんみたい」
「声、可愛い」
「本格的?」
「もっと聞きたい」
二つ目、三つ目と、たくさんの理由が並べられていた。
それを見た瞬間、橋本が言った生きる理由の本当の意味を、静華は理解できた気がした。
自分という存在にしか生み出せないものを認めてもらえた時、人は生きていても良いと許された気になるのかもしれない。
そんな、大それた事を考えたくなるくらい、静華の今日この時、十四年目にしてやっと「生きてて良かった」と初めて思えた。
静華は、それらのコメントをスクショしながら、橋本の家に初めて行った時と同じように、頬が痛くなるほど笑っていた。
END
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