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昨日までの自分だったら、絶対にこんな事しない。
自分なんかが、トップオブ一軍に話しかけるなんてことも、まして人前で感情を声でぶつけてしまうなんてことも。
無視されたり、嫌がらせされる日々になんか、もう二度と戻りたくなんかない。
だから、ドベオブ三軍として、誰ともしゃべらず関わらずな、クラスの幽霊に静華はなり続けてきたというのに。
こんな、ゴミとして丸めて捨ててしまいたくなる、考えるだけで息が止まりそうになる気持ちを、よりにもよって一度も経験したことがないであろう橋本が、静華が穏やかに生きるために築き上げた心の要塞をぶち壊してきたのだ。あっさりと。
許せないとか、そんな単純な言葉では、静華にはとても表しきれない。
ぐちゃぐちゃで、真っ暗で、ベタベタして気持ち悪い感情。
これこそ一言で言うなら、気持ち悪い、なのだろう。
しかもその日のクラスの雰囲気は、静華にとっては最悪オブ最悪。
昨日までは、自分のことを認識してるのかすら分からないくらい、誰からの視線も感じなかった。
そうなるように、ずっと静華は息を潜めることを努力し続けていたのだ。
それなのに、今日はずっとあちこちからの視線が突き刺さり、静華の頭もお腹もひどく痛かった。
早く帰りたい。
逃げたい。
お願い私を帰して。
こんな気持ちは、数年振り。
忘れたのは、あくまでつもりだったことを、静華は知り、絶望すらした。
だから。
「話があるんだけど」
放課後になり、ようやく教室を出ることを許された瞬間に、声をかけてきた橋本を、静華は憎んだ。
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