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 事の始まりは、約一週間前。  静華がいつものように、ホームルーム直後に逃げるように教室から飛び出ようとした時。 「藤野さん、ちょっと待って」  その人物が静華に声をかけたせいで、教室がざわついた。無理もない。  静華は、マスクの上から自分の口を手で押さえながら、できる限りのひそひそ声を出す努力をした。 「な、何でしょうか……?」 「え?何だって?」  彼は悪びれもせず、静華の口元に耳を近づけて、静華の声を拾おうとした。そんな様子を、クスクスと誰かが笑った。  一軍の誰かだろうことだけは、静華はわかった。  でも女子は全員マスクをしていたこともあり、正確に誰が発したかまでは分かりたくもなかった。  静華は、押さえていた手を少しだけ緩めてから、勇気を振り絞ってもう一度尋ねた。 「私なんかに、何のご用でしょうか。橋本くんが」  なんか、という言葉が静華の口から無意識に出てしまうくらい、橋本蓮と静華は違いすぎる。橋本は、クラスカーストの一軍の中のトップオブトップ、静華は三軍の中のドベオブぼっちだから。 「藤野さんの時間をさ、俺にくれないかな?」 「へっ!?」  その瞬間、教室がどれだけ騒がしくなったのかなんて一切気にしないのだろう。橋本は静華の返事なんか聞かずに、静華がいつの間にか落としてしまったリュックを拾い上げ、そのまま廊下に出てしまった。
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