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 静華のリュックを人質ならぬ物質として、橋本が静華を連れてきたのは音楽室。誰も、いない。  一般的な女子は、アイドルグループにいてもおかしくない容姿を持つ男子と二人きりになることを喜ぶだろうが、静華にとってはただただ胃痛の元でしかない。 「返して……」  早く家に帰りたい。  部屋に引きこもってTikTokやYouTubeでも見ながらぼーっとしたい。  静華にとっては、学校一のイケメンとの時間なんかより、脳死でスマホを見ている方がずっと呼吸できた。  ところが、橋本は静華がどれだけリュックを切望しているかを、確実に分かっていたのだろう。 「返してあげてもいいけど」  いいけど、だと? 「俺の頼み、聞いてくれない?」  そんな風に、交換条件を持ちかけてきた。  理解できない。  何故私なんかに頼みを?  言葉にしたくても声が喉に突っかかる。  無音が続く。  その間、橋本はじっと静華を見ている。  それが余計に、静華を硬直させていく。  死後硬直って、もしかしてこういう感じなのかな、と現実逃避的に静華は考えてしまった。 「そんじゃ、OKってことで」 「な、何が……」  静華が尋ねるのと同時に、橋本が取り出したのはiPhone。しかもカメラが3つついてる、最新型。  それは、静華は生で見たことは一度もなかった、憧れの機種だ。  またもや、橋本と自分の違いをまざまざと見せつけられた気がした。 「ここ、座って」  橋本が勧めた椅子に、静華が恐る恐る座ると、橋本は遠慮せず真横に座ってきた。  教室の席でさえ、こんな近くに座ったことがなかった。  静華は心臓の音が橋本に聞こえていないか、ひどく心配した。  静華のリュックを、静華とは真反対の椅子に置き、自分のリュックは地べたに置いた橋本は、そのまま制服のポケットから取り出したiPhoneの画面を静華に見せた。
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