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 橋本からLINE通話がかかってきたのは、二時間後の二十一時になってから。  静華は躊躇わずに通話をタップした。 「動画、どうだった?」 「恥ずかしかった」  本当に素直な感想だった。  腹括ったとか、許せるとか、やっぱりそういう問題でもなくて、ただただ自分の声がAndroid越しに聞こえてくることが、破壊力抜群だった。  それでも、消して欲しいとは、静華は思わない。  この動画もまた、橋本の生きる理由になるのだから。 「今回の動画、UPの時間帯まずったかな」 「え?」 「いや、だって前みたいにバズらないから」 「だって、まだ二時間……」 「バズる時っていうのは、ちゃんと兆候があるんだよ。今回はたぶんダメだ。あー悔しい」  電話口から聞こえてくる橋本の声が本当に悔しそうだったので、私は申し訳なくなった。 「私の声を使ったからじゃ」 「それはない」  きっぱり言われてしまったのもまた、別の意味で恥ずかしい。  熱が出たかもしれない。  脇汗がすごい。  良かった、今一人で。 「動画はいいものができたと思う」 「うん」 「あ、その声疑ってる?」 「疑ってないよ!」 「本当に?」 「ほんとほんと!」  ストーリーも絵も、気合いが入ってることが伝わる。  幼馴染の再会のストーリーだった。  それがたまたまなのか、橋本がわざとそうしたのかは静華は聞いてない。  たまたまじゃないと思った方が、静華は耐えられると思ったから。 「とにかくさ、トップクリエイターになるために、俺もっと動画出すからさ」 「う、うん」 「早速だけど明日空いてない?」 「え?」 「まさか、一回だけなんて、思ってないよね」 「思ってた」 「そんなわけないじゃん!一緒にトップクリエイターになろうって言ったじゃん」 「ええ!?」  いつの間に橋本の中でそんなことになっていたのか。  これは、断るべきかと静華は口を開いた。  でも、すぐに閉じた。 「俺は、しずちゃんとトップクリエイターになるって決めたんだから」  この言葉が、やっぱり静華は嬉しかったのだ。  そう言えば、TikTokで男は女の話を聞かないものだと言っていたなと静華は思い出して笑ってしまった。 「え?何?そんなにおかしいこと言った?」  言った言った。  色々おかしいから。  心の中で言いながら、静華は別の言葉を選んだ。 「明日、そっちに行けば良いの?」 「もちろん!」  橋本の声は、とてもキラキラしていてかっこよかった。  そのままの橋本の声を使った方が動画が伸びるんじゃないかとも思ったけど、それは自分のために言わないでおいた。
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