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僕の生まれは、西海岸のごく一般的な家庭だ。白い壁の家に、青々とした芝生。スプリンクラーで水を撒いていなければすぐに芝生は枯れて茶色くなってしまう。夏の太陽の下、道路に浮かぶ逃げ水をバックに、細かいガラスのようなスプリンクラーの水滴がきらめいている。
それを僕は今でも記憶している。
なぜ、戻れない過去のように、生まれた家のことを語るのかって言ったら、僕にとってはそれが戻れない過去だからだ。
二歳の夏、僕は誘拐された。
誘拐したのは、ある貧しい女だった。
彼女は母親になりたかったが、上手くいかなかったのだ。それで、幸せそうな家庭の子を誘拐し、自分の子として育てることにしたようだった。
誘拐は三年半続き、やっと警察が見つけてくれた時には、僕はもう六歳になっていた。
誘拐した女は僕にママと呼ばせたがっていたが、僕は自分の母親のことを覚えていたので、彼女をママとは呼ばなかった。だが格別の悪感情を抱くほどでもなく、警察に取り押さえられたのを見た時は驚いていたようだ。
警察によると、僕が僕であるという情報の決め手になったのは、左の目尻の黒子だった。それは今でもあるし、君も見ていることと思う。
とにかく、無事僕は、家に帰れることになった。
「ああ、ジョイス! 会いたかったわ!」
母親は、僕の顔を見るなり、そんな風に言った。
それから、父親も、他の親戚も、それから近所の人も。みんな大げさなまでに祝福してくれて、会えなかった三年半のぶんの誕生日パーティを一度にやった。
その時のことはよく覚えているし、その写真も何度も眺めたから、記憶に焼き付いている。銀紙の三角帽子を被った六歳の僕は目の前のケーキに夢中で、頬には白いクリームが付いている。その後ろに立つのは父親と母親。二人ともカメラに向かって、笑顔を作っている。
それから、改めて僕の家庭生活がスタートすることになった。だが、それは上手くは行かなかったのだ。
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