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その日も、僕は学校をサボり、早いうちに家に帰ってきていた。
家の扉は開いていて、僕は何も言わずに、そろりそろりと家の中に入っていった。あるいは、僕が学校をサボっていることを両親は知っていて、わざと鍵を開けていてくれたのかもしれない。
だけど、僕は聞いてしまったのだ。
両親の寝室で、二人が何か話している。
足音を立てないように、その前を通り過ぎようとする僕。
父親のくぐもった声、そして、母親の高ぶった、涙声混じりの高い声。
僕は聞き耳を立てる。
「……もう嫌よ!」
母親は叫ぶ。
「ジョイスが、可哀想だろう」
父親は閉口したようだった。
「可哀想なのは私のジョイスよ。あの子じゃない! あの子は私のジョイスじゃない!」
「お前……」
「ジョイスは、もっと賢くて、もっと気が利いて、みんなから愛されて、そんな子だった! あんなうすのろで、癇癪持ちじゃなかった! ねえ多分、警察が間違えたのよ。ジョイスを帰して!」
「……お願いだ、そんなことを言わないでくれ」
父親は母親を諫めているようだが、同時に何かを知っているようだった。
二人の間には、僕の知らない何かの了解が存在している。
「……ねえ、あなた、頼んでよ」
「駄目だ。……なあジェーン。あれはあくまで、代わりなんだよ。今のジョイスが、本物のジョイスだ。それに」
「それに?」
それに?
ずっと二人の会話を聞いていた僕の心臓は、今にも口から飛び出そうになっていた。
そして、父親は続ける。
「俺たちが『ジョイス』をレンタルすることができていたのは、犯罪被害者救済プログラムの範囲内だったからだ。今から借りるとすれば、目の玉の飛び出るようなレンタル料を自分で支払わないとならなくなる」
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