『カッコウ』

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 チャンネルを変えたのは君だった。  ニュースチャンネルの討論番組、おなじみのプレゼンター。  質問されているのは、初老の痩せた男だった。名前は、アンドリュー・ワイルド。ロボット工学と人工知能の専門家。 『……しかしながら、このようなアンドロイドの存在は、人間社会にとって望ましくない結果をもたらすのではないですか?』 『望ましくない結果というのは?』  プレゼンターの投げかけに、逆に質問するワイルド博士。 『例えば、アンドロイドがセックスパートナーとなれば、人々は人間のセックスパートナーを探すことをやめて、非婚率が上昇し出生率が低下する、などです。実際にバーチャルゲームでは……』  続けようとするプレゼンターを遮り、ワイルド博士は自説を展開し始める。 『人間に限りなく近いアンドロイドが誰の手にも届くようになれば、そう言った懸念があるかもしれません。だが、我々のアンドロイドは、そう言った目的では作られていません。人間に限りなく近いアンドロイドの提供は、あくまで特殊な用途に限られ、高価格に設定されています。そのため、可能な限りの高品質を顧客に提供することができる』 『特殊な用途とは?』 「つまらないね。消すか」  そう言った君を、僕は無言で押しとどめた。僕の視線は画面に釘付けになる。画面はワイルド博士の顔を映すのをやめ、ある映像を映し出し始めた。  子供時代の、僕。  本当の僕ではなくて、存在しなかった、自分の家で生活する三歳から五歳の僕。 『犯罪で子供を失った家庭に、子供とそっくりなアンドロイドを派遣する。そうすることで、家族は子供を失った悲しみを癒やし、QOLを向上させることができます』  それから、映像がまた変わる。 「……え?」  今度は、そう呟いたのは君だった。 『また我々のアンドロイドは、子供の成長に合わせて、微小なモデルチェンジを繰り返します。アンドロイドに搭載されたAIは、コミュニケーション内容を学習し、よりその家庭の子供らしく、本当の家族らしくなっていきます』  そんなワイルド博士の言葉と共に、画面に映し出されたのは。  僕の顔だった。  左の目尻の黒子。  子供の僕じゃなくて、今の僕の顔が、そこには映っていた。  つまり、どういうことだと思う?  僕の両親は、再びワイルド博士のアンドロイドをレンタルする決断をしたということだ。  失った子供の代わりとして、そして、成長した僕の代わりとして。
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