レッドバードの焼き鳥。

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レッドバードの焼き鳥。

「お昼休憩、行ってきまぁす!」 勤め先である商業ギルドを意気揚々と飛び出す。 商会やキャラバンの馬車がひっきりなしに行き交っている。 ここは、商業都市ターコイズ。 半年ほど前、残業終わりでへろへろの私、梅澤なつきはうっかり異世界に迷い込んでしまった。 異世界だ! と気づいた時にはテンションが上がったが、私には特にチートとかなかった。 ならば、飯テロを! と思ったが、たいていの物はすでに存在していた。 なんでも、この世界はほかの色々な世界から人や動植物や品物が迷い込むのだそうだ。 つまり、私のように異世界から来る人間は表沙汰にはされていないが、けっこう多いらしい。 この世界で暮らすための手続きも、すでに各国や都市で確立しているという話だった。 混乱を避けるため、他者にはなるべく口外しないように、と忠告された。 幸い、私には言語習得スキルと鑑定スキルがあった。 おそらく、元の世界で輸入雑貨を扱う会社の仕入れ部門で働いていたからだろう。  あの頃は、電話でいきなりどこの国の言葉かも分からない言語で怒鳴り散らされた事もありました……。 しかも、私の担当じゃなかったし! ……まぁ、それはともかく。 おかげで、商業ギルドで雇ってもらえる事になった。 特に鑑定スキル持ちは冒険者ギルドに取られてしまうらしく、それを未然に防ぐためなのか、比較的高いお給料をもらえている。 一応、商業ギルドの偉い人には、違う世界から来た人間であることは報告してある。 市場が近付いてくるにしたがい、威勢のいいかけ声が聞こえてくる。 ぷぅん、といい匂いがしてきた。 「なに、食べよっかなぁ」 特にチートとかなかった私は、世界を救ったりするわけでもなく。 物珍しい異世界の食べ物を日々味わい、それなりに今の生活を楽しんでいた。 「とりあえず……」 馴染みの屋台をのぞく。 串を打った鶏肉を、炭火の上でくるくると回している。 レッドバードという、名前の通り赤い鳥の肉だ。 鳥といっても2メートルくらいしか飛べず、初心者の冒険者でも狩れる上に、家畜としても飼育しやすく、この世界ではもっとも流通している。 「なつきちゃん、いらっしゃい!」 「おばさん、タレ二本ちょうだい」 「はいよ!」 屋台のおばさんが、甘じょっぱい匂いのするタレをはけでたっぷりと塗ってくれた。 ぽたりとたれたタレが炭火でじゅっと音をたて、香ばしい匂いがする。 服の上にタレをこぼさないように用心しながら、熱々の肉にかぶりつく。 外側はぱりっとしていて、噛むとじゅわっと旨味が口一杯に広がる。 焦げたタレの部分が香ばしい。 「うっまぁ……!」 あー、ビール欲しい! この世界にも、麦で作った発泡酒はあり、また氷魔法でキンキンに冷やす事も可能だ。 だが、いかんせん今はお昼休み中。 午後からまた仕事に戻らないといけない……。 ぺろりと焼き鳥二本をたいらげ、私はお昼ごはんを食べるために、ほかの屋台を見て回った。 さて、午後からもお仕事がんばりますか。
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