給料日のおむすび。

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給料日のおむすび。

きました! きましたよ、お給料日が! この日が来るのを、どれだけ待ちわびたか! 鑑定スキルを持つ私は、ほかの人よりは高いお給料をもらっている。 住む所も、商業ギルドに紹介してもらった集合住宅なので、安全面も保証されている上に、家賃もリーズナブルだ。 趣味も食べ歩きくらいなものだから、そんなにお金も使わない。 少しずつだが、こつこつと貯めてもいる。 その私が、給料日を待ちわびていたのには理由がある。 白米を食べるのだ! 真珠国、というずっとずぅっと昔に遠い遠い国から船で流れ着いた人々が作った国がある。 黒髪、黒い目を持つ人が暮らすその国では米を主食とし、味噌や醤油に似た調味料を他国へと輸出している。 おかげで、この世界でも和食が食べられるのだが。 高い。ものすごく高い。 真珠国でしか栽培されていない米は、様々な国に輸出されているが、需要と供給の関係で高値で取り引きされている。 おむすび一個が、パン十個と同じ値段で売られている。 定食を食べようものなら、一週間分の食費がとぶ。 真珠国は観光地としても人気がある国なので、お金を貯めていつかは行くつもりなのだが。 とりあえず、今はおむすびが食べたい! 梅干しとか昆布とか鮭とか! 定食屋の並ぶ通りには、冒険者や商人の姿が多い。 様々な国や都市の郷土料理専門の店などもあり、活気にあふれている。 あー、いい匂い。 つい誘惑されそうになるが、今日は我慢だ! 先日見つけたお目当ての店へと急ぐ。 通りを一本奥に入ったその店は、こじんまりとした店構えで、紺色の暖簾を店先にさげている。 真珠国の料理を出している店の中では比較的値段が安く、こっそり鑑定スキルで見てみたら〈優〉と出たのだ。 「いらっしゃいませ!」 暖簾をくぐると、明るい声が聞こえてきた。 店の中は満席というほどではないが、そこそこ人が入っている。 あ、うどん食べてる……。 うどんは小麦が材料のためか、白米よりは値段が安い。 ……いや、今日はおむすびだから! 空いているテーブルに着くと、作務衣のようなものを着た黒髪のお姉さんが、にこにこしながら声をかけてきた。 「いらっしゃいませ! 何にいたしますか?」 壁に筆で書かれたようなお品書きが貼ってある。 「えーと、おむすび二つ。梅干しとトウラで。お味噌汁と卵焼きもお願いします」 そわそわしながら待っていると、湯気のたっている料理を乗せたお盆がテーブルに運ばれてきた。 「いただきます!」 おむすびはほんのり温かかった。 ほどよい握り加減で、かじりつくとはらりと口の中でほどけた。 懐かしい、かすかな甘味を噛みしめる。 「うっまぁ……!」 梅干しは、まんま梅干しだった。 ただ、元の世界で食べていたものより塩味が濃いようだった。 お味噌汁の具は、ハバルという小さな貝でシジミに似た味がした。 貝の出汁が、お味噌汁に溶け込んでいる。 一口飲むと、ほぅっ、と何故かため息が出た。 温かいお味噌汁が、身体中に染み渡った。 卵焼きはレッドバードの卵なので、黄色ではなく、赤みの強いオレンジ色だ。 口に入れると、ほんのり甘くてふんわりとした食感だった。 砂糖は高価なので何か違うもので味付けしているのだろう。 トウラは鮭に似た魚で、産卵期にはやはり川を遡上する。 海沿いでは生で刺し身として食べる地域も多いようだが、内陸にあるターコイズでは基本的に塩漬けや薫製にしたものが食べられている。 おむすびの具は、塩漬けにしたトウラだったらしく、少ししおっからい。 だが、それがまたおむすびには合っている。 「あー、美味しいなぁ……」 ゆっくりゆっくり味わって食べていたが、最後の一口になってしまった。 名残を惜しみながら、おむすびの最後の一口を食べ、お味噌汁を飲み干す。 これでもう、またしばらくは食べられない。 だが、大満足だ。 お給料日になったら、また来よう。
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