後編

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

後編

 そんなこんななミッションは、何度目になるだろう。  王太子の疑心暗鬼を取り除くことに成功。リアの謹慎処分を解かせて、彼女には罪がないことも証明できた。  今回は、ついでに密かな恋心を抱いてらっしゃったとかいう騎士団長のニガルまで巻き込んで、ようやくリアを幸せにしてあげられた。  で、私も。  主人公らしくセルジュと愛が育めて、見事、卒業パーティの後に、結婚式を上げることになったのだ。  気が抜けない2年間だった……。  でも、おかげ様で充実した日々だった。  何しろセルジュが優秀で。  ひとつでも間違った言動をすると、すかさずツッコミ入れて来るのだ。  そのせいで何度やり直し人生させられた? って感じだったけど、そうなる前に修整できたことも多かったので、おおむね成功したほうだろう。……多分。  そもそも失敗のない人生なんて、100%の人生なんて、きっとない。  今が順調でも、この人生だって、この先まだどうなるか分からない。  けど、先のことを嘆いても仕方がないのだ。  今は、今の精一杯の選択をするしかない。 「汝、健やかなる時も病める時も……」  口上を述べる神父に、 「愛し続けることを誓いますか?」  問われ、 「はい」  と応えた自分に、嘘はない。  これだけしつこく人生やり直しまくったのだ、もう前世の記憶も薄れてきたし、そろそろセテカとして幸せになりたい。 「セテカ」  呼びかけてくれるセルジュが、「ほら」と腕を私に示す。掴め、という意味だ。  彼の腕を掴んで歩きだす、そこは教会の扉である。誓いを立てた私たちの門出を見送ろうと、扉の向こうでは皆が待ち受けてくれている。  自分の家族に、セルジュら王族の皆様、リアジニア様もいらっしゃるから、そうだ、ブーケトスしなきゃ。  パレードの準備も出来てるし、披露宴も催されるので、まだまだ気が抜けない。何もかもが、これからなのだ。  やっと、次のステージに行ける……と感慨を覚えながら私は、セルジュと共に、開いた扉の向こう、光の中へと踏み出した……。  という、そこで目が醒めた。 「……え?」  天蓋付きの自分のベッドは、嫌でも思い出せるスタートシーンだ。何度も何度も繰り返した目覚めで、私はクリーム色のネグリジェを着ていて、指には、セルジュがくれた婚約指輪がはまったままである。 「……」  はまっている。  ネグリジェも、クリーム色だ。  嫌な予感を覚えながらベッドから身を起こし、鏡の前に立つと、そこには、2年前の私がいた。 「……なぜよ」  低く呟いた瞬間、ブワッと怒りが沸いてきた。 「なぜよ!!」 「お嬢様?!」  聞きつけた侍女が慌てて部屋に飛び込んでくる、これは初めてのパターンだ。普段なら、静かに入室し洗顔の準備をしてくれている。  この取り乱し方も、今後に響くかも知れない。  気付いて私は、急いで取り繕った。 「ごめんなさい、夢見が悪くて飛び起きてしまったの。何でもないわ」  言いながらも内心では、何でもない訳ないけどね……と、ごちる。  成功したはずだった。  私もリアも、死んでいない。  何度もやり直した人生の中で一番、完璧に、幸せになったはずだ。リアも、その相手のニガルも、セルジュのことも、家や王家の問題や国際問題に至るまでクリアしたはずだったのに……。  死ななくても、幸せになっても、やり直しだなんて。  もう、何が正解なのか、どうやれば良いのか分からない。  狂ってバッドエンドにするパターンなんてのも、アリなのかしら?  ◇◆◇ 「主任、成功パターンが入手できました」 「分かった、では一旦、記憶をリセットするか」 「あと一パターンぐらいはサンプルが取れるのでは?」 「狂人バッドエンドパターン取りたいか?」  言われて、このプロジェクトに参加したばかりの新入社員は、言葉に詰まった。 「ハッピーエンドパターンを迎えてからの人生リセットになってみろ、心が折れるぞ。俺なら勘弁してくれってなる」 「……確かに」  そこは新人も素直に賛同した。 「AIでは得られない奇想天外な選択肢を生み出す辺りは、人間の脳ならでは、ですもんね」 「その通り。AIを育てる予算がない以上、人の脳が生み出す妄想パターンを取り出して商品化するほうが早いし、面白い」  たまたまヒットした『薔薇王国の学園』だが、続編が出なければ飽きられて終わりになる。  そうならないためにも社運をかけて立ち上げられたプロジェクトが、この『薔薇王国の学園2』である。  1でハッピーエンドを迎えた主人公たちの、新たな試練を描いた物語だ。テーマは「悪役令嬢を救え!」となっている。その上で主人公自身のハッピーエンドも迎えねばならない。  セルジュとのゴールインが王道だが、そこを覆して他の攻略対象とゴールインすることも考えてはある。  今回使用している脳が、なかなかそうならないが。その代わり、どうにかして、何としてでもリアを幸せにしようと頑張るので、そんな選択肢もあるのかと驚かされることが多い主人公(プレイヤー)だ。  もちろん、主人公は自分がプレイヤーだとは知らない。  彼女がいる世界が偽物だとも知らない。ゲームの世界に転生したものだと思っている。  まぁ、ある意味で転生しているのだが。  彼女の肉体は、もうない。 「主任、リセットかける前にミッションが進んでしまい、セテカ役の子の精神が崩壊したみたいです。激しく笑いながら、会う人間を片っ端から殺してます」 「そう来たか。何も信じられず、自分の努力が無駄だという結論に陥ったんだな」 「本当にそうですもんね」  ボソッ。 「なんか言ったか」 「いえ別に」 「気の毒だが、これはこれでパターンに組み込んでも良いだろう。選択肢はハードなほうが客は燃える。病みオチがウケる層もあるだろうしな」 「鬼ですね」 「全滅する前にリセットかけてやれ」 「あれ、優しい?」 「R規制の要るシチュエーションまで入ると面倒だからな」 「やっぱり鬼だ……」  呟きながら新人は、デモゲーム中のセテカと、セテカをやっている女性の脳との接続を、切った。 〜BAD END〜
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!