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エレベーターで四階に上がりサロンの入り口から覗いてみると、部屋の向かい側の窓際のいつもの席にターニャが座っているのが見えた。右奥の方ではジンリーやクラウディア達がお喋りしている。真ん中辺りのテーブルにはアデーレとアーリムが座っていたが、アヤの意識にはほとんど上らないかった。三十歳を過ぎたおばさんやおじさんには(別に悪気があるわけじゃないけど)用事がある時以外は意識が向かないのだ。
「ターニャ」
窓際に近づいて声を掛けると、ターニャはこちらを見上げた。
「アヤ、おはよう。あ、もう朝じゃないか」
アヤがちょっと笑いながら向かいに腰掛けると、何?というようにターニャが片眉を上げた。
かっこいいなぁ、と思う。同じような肩までの長さで同じような黒っぽい髪をしているけれど、彫りの深い顔立ちのターニャがこういう仕草をすると本当に素敵だ。アヤも自分の部屋の鏡の前で片眉を上げる練習をしてみたりするが、うまくいかない。お腹が痛いのを我慢している人、みたいな顔になってしまう。顔立ちもターニャと違って平面的だし。
「ううん。何でもない。お昼ここで食べない?」
「んー‥いいよ」
ターニャはどうでも良さそうに答える。そんなふうに俗世間ぽいことに頓着しないところもかっこいいなぁと、頓着ばかりしているアヤは思う。
アヤが二人分のブレッドと代用ミートのパックと野菜ジュースのカップをチューボーから持って来て、二人で食べ始める。しばらくすると、次々やって来て昼食を食べる人々でサロンの椅子は半分方埋まっていた。
とはいえ、そのほとんどはアヤにとっては無意識裡に置かれる三十歳以上の人々である。アヤ達と歳の近いグループは、アヤが来る前から喋っていたらしいジンリー達と、窓際の一番右奥に集まって来たヨギとニコスとアルシュの三人組くらいだ。
それに、一応意識上にあっても、四、五歳上なだけでえらく大人っぽいアンジー達とは全然話が合わないし、暇さえあれば走ったり運動しているヨギや、いつも植物なんかのことを調べているニコスや、やたら理屈っぽいアルシュとは喋る気もしない。頓珍漢な会話をして疲れるくらいなら、一人で本を読んだり映像を観たりする方がよっぽど楽しい。あ、ターニャとお喋りするのは好きだけれとど。でもターニャともすごく話が合うわけじゃない。一歳上なだけなのに、ターニャも大人っぽいと思う。あんまり自分からはぺちゃくちゃ喋らなくて、こっちの話をゆっくり聞いてくれて落ち着いているのは、自分は自分、人は人、ってことがわかっているからなのかなぁ。
ターニャは生き物が好きだから、M12星に着いたらそこで獣医師になりたいのだそうだ。今から一人でコツコツその勉強を続けている。私なんかまだ将来のことなんか何も考えられないのに。ターニャの横にいると、自分は子どもっぽいな、と落ち込むこともあるけれど、かっこいいターニャといるとちょっとかっこよさを分けてもらえて大人っぽくなるような気もしてくるのだ。
大人っぽい、と言ってもジンリー達と一緒に居て大人っぽく見られたいとは思わない。なんていうか、面白いと思うことの内容が違いすぎ。彼女達の傍を通ると大体いつもタイランのこととか、ほかの男の人達のことや、おしゃれのことを話している。タイランは十七歳で、確かに見た目はかっこいいけれど。でも無愛想だし、船の操縦やなんかにしか関心なさそうだし。それ以外の男の人に至っては三十歳以上!とかそんなおじさんと何を話題にするというのだろう。
着るものや髪型のことだって、オートメーションであまり変わり映えはしないけれどゆったりと動きやすくて機能的な上下服が用意されているのに、それにわざわざちょっとした変化をつけたり、髪のカットなども機械じゃ気に入らずお互いに切り合ったり、ほんと気が知れない人達だ。
両手を広げて何か力説しているアルシュとその仲間達と、おでこをくっつけるようにしてヒソヒソ喋っているジンリー達から眼を戻すと、相変わらずターニャは窓に凭れて野菜ジュースのストローを咥え、外を眺めている。いつもと変わらない真っ暗な宇宙(そら)を。
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