ロング ボヤージュ

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           1  夜眠ろうと思ってベッドへ行ったら、猫が先に丸くなって眠っている、というシチュエーションを思い浮かべることがある。実際には猫という生き物を見たことも触ったこともないのだけれど。  映像で見るとふわふわと柔らかそうな毛をしているようだが、手で触った感じはどうなのだろう。また猫が丸まって眠っている場所は、日当たりの良い板敷きの上だったり、室内のソファだったりするが、猫が居る場所によって手に触れるその毛の温かさや手触りは違ったりするのだろうか。  犬なら実物を見たことがある。動き方が激しい感じで近づくのが怖かったから、遠目に見ただけだけれど。母星にいた時、研究所の人が時々、研究所の庭に放して走らせていた。大きさは五、六歳だったアヤの膝を超えるくらいで圧倒されるほど大きくはなかったけれど、柵のずいぶん向こうにいてもピョコピョコした走り方と鋭い鳴き声がなんだか危険な気がして近寄れなかった。  一緒に見ていたターニャは、柵のところまで近づいて行って犬の頭に触らせてもらっていた。  「怖くないの?」  研究所の人が犬を連れて行ってしまって戻って来たターニャに聞いたら、  「かわいいじゃん!しっぽ振ってたよ。デュークって言う名前なんだって」  ターニャは眼をきらきらさせてたっけ。  動物に名前を付けてずっと一緒に暮らすってどんな感じなんだろう。犬は無理だと思うけど、猫なら一緒に居たいかも。でも毎日いろいろな世話をするわけだから煩わしくなったりするのかな。ご飯をあげるのは楽しそうだけどトイレの始末とか。それともそんなこと全然平気なくらい可愛いのかな。  自分のことはその時になってみないとわからない気がするけれど、ターニャならきっと世話のことなんか苦にしないでその動物を可愛いがって一緒に暮らすと思う。自分のことより人のことに確信を持つのもおかしな話だけれど。まぁどっちにしても動物を飼える可能性が出てくるのは八年先だ。目的地であるM12星に着くまでは、動物達の貴重な卵子精子は大切に保存してあるそうだから。  アヤは寝台カプセルにぼんやり当てていた眼を手元のタブレットに戻した。今日の学習プログラム課題は終えたし、もうすぐお昼だからサロンに行ってみようかな。ターニャが居たら一緒に食べよう。もし居なかったら持って帰ってここで食べよう。  部屋を出たアヤの後ろでドアが閉じ、歩き出そうとした時、左右に長く伸びる廊下の左手を曲がってヨギが走って来るのが見えた。結構なスピードで近づいて来る。  「あ、おはようヨギ。あぁもう朝じゃないか」  「よ」  ヨギは全くペースを変えずに通りすがりにアヤに頷いてみせると右手の方へ走り去り、角を曲がって消えて行った。
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