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「はじめまして、私は最新のテクノロジーを駆使して作られたアンドロイド、通称『テクノロ爺』のイゾウでございます。本日より一ヶ月間、神宮寺家の使用人として精一杯勤めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
玄関先で腰を折り深々と頭を下げる白髪の老紳士。精巧に作られまるで人間にしか見えない『テクノロ爺』が、ある日我が家にやって来た。
なんでも、近頃話題となっているお手伝いロボットやらAI技術やら、そんな小難しい科学の結晶である最新家電なのだそうだ。
その割りに、見た目がおじいさんなのも、ネーミングが駄洒落なのも如何なものだろう。僕は少し考えて、商品名ではなく名前で呼ぶことにした。
「あー、はい、よろしくお願いします……イゾウさん。えっと、とりあえず中へどうぞ」
「失礼致します」
「おじーちゃん、ロボットなの? すごい! キイナと遊ぼう!」
「ダメだぞキイナ。このおじいちゃんはお仕事に来たんだ」
僕は幼い娘を抱き上げながら、彼を迎え入れる。キイナが人見知りしないのは珍しい、この外見で正解だったのかも知れない。
「すみません、散らかってるんですが……」
「構いませんよ、掃除はお任せください。そのための『テクノロ爺』でございます」
妻のカナデを亡くし、まだまだ手の掛かる娘との二人暮らし。慣れない家事に子育てと仕事、休まらない日々に疲弊しきった時、ちょうどポストに入っていた『自立型家事手伝いアンドロイド』のチラシに惹かれて、ひとまず一週間のお試しで予約をしたのだ。
「それでは、炊事洗濯掃除等の家事全般、必要に応じてさせていただきます。お食事のアレルギーや、掃除の不要な箇所等は事前アンケートにてインプット済みですが、変更点等がありましたら都度口頭でお伝えください」
「は、はい。それじゃあ一週間、よろしくお願いします」
随分と高性能だ。テクノロ爺は分厚い古びたデザインの老眼鏡に、執事のようなぴしっとした黒い服、白い髪をきっちり後ろに流したヘアスタイルに蓄えた髭。絵に描いたような老執事だった。
キイナは興味津々な様子で、そんな彼の後をついて回る。
「ねえねえ、遊ぼう? 積み木したい!」
「ああ、いけませんキイナ様、私はこれからお掃除があるのです。ですがそれが終わりましたら、一緒に積み木をして遊びましょうね」
家事全般だけでなく、育児にも対応しているようだ。母親が居なくなり塞ぎ込みがちだったキイナが、何かに興味を持つのは久しぶりだった。
思いきって頼んでよかった。僕は安心しながら、午後には出ないと間に合わない出張の準備をする。
「キイナ、イゾウさんの言うことちゃんと聞くんだぞ」
「はぁい」
「それじゃあ、僕は今日から三日間出張で留守にするので……あとは頼みます。何かあったら連絡ください」
「かしこまりました、いってらっしゃいませ」
いつもなら出社ですらぐずってしまうキイナは、テクノロ爺と手を繋ぎ笑顔で僕を見送る。
安心と寂しさに複雑な気持ちになりながらも、トランクを片手に僕は慌ただしく家を出た。
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