交差点

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 正午前、拓馬(たくま)は帰り道を歩いていた。明日からは夏休みだ。夏休みが近づくにつれて、小学校が半ドンの日が増えてきた。そう思うと、夏休みや冬休み、春休みが近いんだと思い、気持ちが軽くなる。  拓馬の横には、達之(たつゆき)が歩いている。達之は拓馬の同級生で、住んでいる地区も一緒だ。2人は幼馴染で、一緒に遊ぶ事が多い。 「明日から夏休みかー」  拓馬は笑みを浮かべている。明日から夏休みなのが嬉しくてたまらない。それは達之も同様だ。夏休みは何をしよう。そう考えると、また気持ちが軽くなる。 「何するつもりなの?」 「盆休みに金沢に旅行」  達之は盆休みに金沢に旅行に行くようだ。金沢は何年か前に新幹線が開通して、東京からより近くなった。今、注目を集めている観光地の1つかもしれない。 「僕は特に行くところないなー」 「ふーん」  拓馬は予定がないようだ。ただ単に、地区水泳に行って、勉強して、ゴロゴロするだけのようだ。 「夏休み、楽しみだね」 「うん」  2人は交差点に差し掛かった。だが、拓馬は電柱の下にある置物に気付かずに、蹴ってしまった。その置物は、子供の顔をしていて、両手で花を持っている。 「うわっ・・・」 「どうしたの?」  その声に反応して、達之は拓馬の方を振り向いた。拓馬は焦っているようだ。 「蹴っちゃった・・・」  拓馬が指さすと、置物が向こうの交差点の真ん中にある。どうしよう。元に戻さないと。  拓馬が焦っていると、1台のトラックがやって来て、置物を踏んでしまった。置物は粉々になった。 「あっ・・・」 「どうしよう、引かれて粉々になっちゃった」  拓馬は呆然とした。壊したら、誰かに怒られる。どんな顔をするだろう。想像するだけでもびくびくする。 「まぁ、いいじゃん」 「そ、そうだね」  2人は気にせず、交差点を渡ろうとした。今さっき、トラックが通ったけど、この交差点はそんなに車が通らない。 「カンカンカン・・・」  と、拓馬は立ち止まった。踏切の警報機の音が鳴ったのだ。この辺りには電車の踏切なんてないのに。高架線を走る電車はあるのに。 「あれ? どうしたの?」  達之は拓馬の様子に疑問を抱いた。何を感じたんだろう。 「踏切の音がして」 「どうしたの?この辺りに踏切なんてないよ」  達之は首をかしげた。この辺りに踏切なんてない。なのに、拓馬はどうして踏切があると感じたんだろう。 「そ、そうだね」  2人は再び進み出した。だが、拓馬はあの警報機の音が気になってしょうがない。どうして自分だけ聞こえたんだろう。  それから数分後、拓馬は家に帰ってきた。父は仕事で、母は専業主婦だ。帰ったら母がいるはずだ。 「ただいまー」 「おかえりー」  拓馬が家に入ると、母の声が聞こえた。カレーの匂いがする。レトルトカレーを買ってきたんだろうか? 1学期お疲れ様の思いを込めた、ご褒美だろう。 「やったー! 今日はカレーだ!」 「嬉しい?」 「うん」  拓馬はカレーだと知って、大喜びだ。だが、拓馬はあの交差点で聞こえた踏切の音が気になってしょうがない。すぐに元の表情に戻った。 「うーん・・・」 「どうしたの?」  母もその様子が気になった。カレーなのに、どうして浮かれない気分なんだろう。 「いや、何でもないよ」 「そう」  母は2階に行く拓馬の様子をじっと見ていた。だが、あまり気にする事はなかった。そんな日もあるさ。明日になれば元通りになるさ。  翌日、拓馬はいつも通りの朝を迎えた。だが、昨日の事が気になってしょうがない。今日も朝から暑い日が続いている。  今日は地区水泳の日だ。拓馬は着替えを持って学校に向かう事にした。すでに準備はできている。あとは出発するだけだ。 「行ってらっしゃい」 「行ってきまーす」  拓馬は学校に向かって歩きだした。いつも歩いている道だが、どこか少し昔の感じがする。あれ? 僕の住んでる住宅地って、こんな感じだったっけ? 木造の家屋が多くて、新しい住宅地らしくない。  しばらく進んでいくと、踏切を見つけた。ここに踏切なんてあったかな? 拓馬は首をかしげた。 「あれ? ここに踏切あったっけ?」  と、拓馬は昨日の出来事を思い出した。昨日、この辺りの交差点を渡ろうとした時、踏切の警報機の音が聞こえた。まさか、あの踏切だろうか? 「まさか、あの音って・・・」 「カンカンカン・・・」  と、踏切が警報音を鳴らした。電車が来るんだろうか?  拓馬は前に目をやると、男の子がいる。男の子は線路のそばで遊んでいた。楽しそうな表情だ。電車が近づいてくるのに気づいていないようだ。 「あっ、男の子!」  突然、男の子が線路内に立ち入った。男の子は警報機の音に気付いていないようだ。 「危ない!」  拓馬は手をかけようとした。だが、電車が通り過ぎた。男の子は電車に引かれてしまった。 「引かれちゃった・・・」  拓馬は呆然としている。だが、それだけでは終わらなかった。こちらにゾンビが向かってきたのだ。引かれた男の子のゾンビだろう。 「助けて・・・」 「わっ・・・」  拓馬はびくびくしている。目の前にゾンビがいる。 「助けて・・・」 「キャー!」  拓馬は叫んだ。だが、ゾンビが近づいてくる。どうしよう。  拓馬は目を覚ました。どうやら夢だったようだ。拓馬は朝から滝のように汗をかいている。 「ゆ、夢か・・・」  そこに、母がやって来た。うなされていて、気になったようだ。 「どうしたの? 汗をかいてるよ」 「いや、あの交差点、昔、何があったのかなって」  拓馬は昨日あったことを話した。一体、あの交差点には何があったんだろう。 「あー、あそこね、昔は電車の踏切があったんだ」 「そ、そうなんだ」  母は知っている。今、高架を走っている電車は昔、地上を走っていて、あの交差点には踏切があったそうだ。 「どうしたの?」 「踏切で子供が電車に引かれる夢を見て」  それを聞いて、母はハッとなった。その事故の事を知っているようだ。まさか、本当にあった事故だろうか? 「えっ!?」 「どうしたの?」  拓馬は呆然としている。本当にあった事なんて。僕はどうしてあんな夢を見たんだろう。 「本当にあった事なんだよ・・・」 「そんな・・・」  その時、拓馬は感じた。あの置物を蹴ってしまって、トラックに引かせてしまった祟りだろうか? 「調べてみてよ」 「うん。図書館で調べてみようかな?」  拓馬は思った。今日、午前で終わる地区水泳が終わったら、図書館でその資料があるか、調べてみよう。自由研究のネタになるかもしれないから。  その日の午後、拓馬は図書館にやって来た。図書館は多くの人で賑わっている。夏休みだからだろう。子供たちの姿も多い。 「いらっしゃいませ」  入口では、受付の人が声をかけた。図書館には様々な古い本がある。その中には、この辺りの歴史が書かれている本もある。  拓馬は調べ始めた。この辺りの歴史を知るための本のある棚にやって来た。ここならあの鉄道の歴史を知る事ができるだろう。事故の事も載っているかもしれない。  数分後、拓馬はその鉄道の歴史が書かれた本を見つけた。その本は少し古臭いが、しっかりと管理されていて、きれいだ。 「これがその鉄道か・・・」  しばらく見ていると、その事故の様子が書かれた文と写真を見つけた。そこには夢と同じような光景が広がっている。やはりあの夢はここの過去だったんだ。 「これがその事故?」  拓馬は事故の様子の写真をよく見た。そこには子供の写真が写っている。 「えっ!?」  だが、拓馬はそれを見て驚いた。なんと、自分自身だ。どうして自分が事故に遭っている写真が載っているんだろうか? まさか、あの置物を壊してしまった祟りだろうか?  と、拓馬は違和感を感じて手のひらを見た。手に血が付いている。その血は本にも付いている。
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