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最悪な目覚め。一年経った今でも鮮明に思い出せる。
俺が三年間勤めた会社を退職する原因になった事件、ゲイだとバレてしまった時の記憶だ。
憂鬱な気分と若干の気持ち悪さを引きずったまま、のろのろとベッドから起き上がる事もせず目が覚めた原因であるコール音へと手を伸ばす。夜勤の俺にこんな時間に電話をかけてくるのは本当に辞めてもらいたい…そう考えスマホに表示された画面を見ると、表示されていたのは今の派遣会社の担当者の名前だった。
「え?あの、どういう、ことですか?」
「えーっと、簡単に言うと、ですね。次の契約更新なんですけど、契約更新は無しということでお願いします。本当に申し訳ありません!」
「だって、この前契約更新の面談終わり、ましたよね?」
「本当に申し訳ありません。こっちの手違いだったみたいで。勿論こちらの不手際なので三分の一にはなってしまいますが契約期間の給金は手当として出す事になりましたから!」
「でも…。」
「はい、これ手続きの書類です。契約が来月までですから…有給消化も考えて今月末までには提出よろしくお願いします。それでは、失礼致します。」
休みの日にも関わらず、突然ねじこまれた電話での面談。
こんな急な面談だなんて、悪い予感はしていた。
内容を聞けば案の定。三ヶ月後まであったはずの仕事が、急に来月末までになってしまった。手違いだなんて、そんな急にもほどがある。幸いにも少しはお金は出るらしいが、派遣社員の給料で尚且つそれの三分の一だなんてそんなものあってないようなものだ。
そのあとの仕事はというとろくに集中出来ず、調子が悪い日と重なってしまった時には見落としを連発。あまつさえ居ても困るからとやんわり遠回しに伝えられ早上がりになる事もあった。こんな愛嬌のひとつも無くおまけにミスばっかりしている俺も、昨今話題になっているパワハラのお陰で腫れ物に触るように遠回しに注意される事しかない。それがとても嫌になる。きっと色々な風に思われ、言われているんだろう。
ああ、胃が痛い。
「ただいま…。はぁ、今日で終わりか。」
数週間後、ついに最終出勤日を終えた。
7月半ば、熱帯夜もいいとこで、体感温度なんて考える暇もないほど暑い。
いつもと同じく音を立てないようにドアを閉じ、忍び足をして作業着を脱ぎ捨て下着姿のままソファーへと倒れ込む。
ピッ…
「あれ?つかない?」
再度ボタンを数回押してみるも、いつもの軽快な音はしても反応がない。
「……壊れた?はぁ、備え付けだし…古いかったもんな。」
この季節、この暑さ、クーラーがつかないのは致命傷だが、しかし何度押してもつかない。
ついには諦めてクーラーのリモコンを投げ出した。思いのほか大きな音を鳴らしながら床に転がり落ちる。
仕事終わりの身体的なだるさと、これからの仕事をどうするかという漠然と目の前を覆い広がっている不安、どうしようもなく胸に広がる焦燥感。そして人恋しさ。疲れからかどうしようもなく腹の底が疼く。でもそれを一人慰めるのもとうに飽きた。
疲れたな
取り留めのない事ばかり頭に浮かんでは消える
頭がぼうっとして上手く働かない
このまま、目が覚めなかったらいい
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