夢見る世界

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思い出すのは昼夜働く母親。 ふとした時に見る母の寝顔はいつも眉間に皺を寄せていてその寝ている姿は布団の上で何かから隠れるように小さく、丸まって眠っていた。 常に笑っていたはずの母から日に日に笑顔が消えていく。 怖かった。 ノートを見つめてはため息を吐く母。学校の先生から渡される封筒。今思えばあれは給食費と修学旅行の積立の未納金のお知らせだったんだろう。 ここまで育ててくれたのに、何も返せず、邪魔にしかなれない。 こんなふうに妬みしか抱けず素直に祝えない自分が1番嫌いだ。 「寝よう。明日はハローワークに行かなきゃいけないし…。」 のそのそと布団へ入り込む。ココ最近ソファーで寝落ちていたからか体が痛い。 敷布団はひどく薄っぺらく寝返りを打つ度に腰が痛む。 こんな歳にもなって抱き枕を抱えながら、体を丸めてスマホを眺める。まるで人が見ればなんとも幼稚で、胎児になるかのような寝姿だろう。 「あ、この小説更新されてる。完結?そっかあ、ハッピーエンドなんだ、よかった。」 日課になっている小説の更新チェックだ。 見ているのは異世界もの、ファンタジー系で、なおかつ恋愛小説。けれど普通の男女ものではない。いわゆるBLと呼ばれるジャンルの、男と男が恋愛する系のものだ。 今読んでいたのは作家として活動している人がweb連載として更新していた異世界転生もの。 俺とは違い顔立ちがとても綺麗で、相手役のキャラ達から一目惚れをされるところから話が始まる。徐々に距離を詰めながら、最後にはお互いに好きな者同士が結ばれ、世界の危機も救われる。見事なハッピーエンドだ。 さらりと読み終わったところでスマホを電源を落とし、眠りにつく。 アイマスクを付けていない状態なのも少し落ち着かず、寝返りばかりをうってしまう。なにせ約半年以上ぶりに昼まではなく夜に眠るんだ。どうしてもなれない。 ごろごろと寝返りを打ちながら先程読んだ小説の中に理想の自分を無理やり登場させて、妄想を膨らませる。 ここはこうして、ああなったらこうして。 ただの妄想。叶うことの無いもの。 けれどもはやルーティンになっているこの寝る前の小説チェックは、このいつも寝る前に読むということ自体に意味があったりする。 なぜなら、ここ一ヶ月ほど、夢見がすごくいいんだ。 そう、なんの偶然か、はたまた妄想力だけは一丁前な自分が等々現実を諦めさらに妄想力を活性化させたからなのか。 あの急に仕事の契約が無くなると分かったあの悪夢の面談の日からだ。 ただ単純にいい夢が見れるというわけではなくて、まるでゲームの中に入ったみたいに夢だと自覚さえしてしまえば、そこには異世界が広がっている。 レンガ造りの建物、古びた街灯、ガタガタの道。 行き交う人々も見慣れない格好をしていて、しかも、周りの屋台では物が空中に浮いている。指から火を出してタバコをふかしている人だっている。 そう、こんなにワクワクする事なんて、俺はこの夢以外に他に知らない。
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