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午後一時。
S寺は今話題のAI住職が説法を開くAI寺だ。
二十畳ある和室で、私とまみこはおばちゃんたち五十人と一緒に突然はじまった説法に驚く。
「簡素ではありますが、お茶をご用意させていただきます」
講談がはじまって、住職の男性の柔らかい声音がパソコンから聞こえる。五十名の参拝者の視線が集まる。
「AI住職って、チャットGPTなんじゃない?」
一緒にAI寺を見に行こうと言い出したはずのまみこがクスクス笑う。
ほうじ茶と羊羹を運んできたのは、若いお坊さんでパソコンの声の主ではない。お坊さんは全員に配り終えると颯爽と本堂の方へ引き上げて行った。
パソコン画面には幾学模様が映し出されていて、それがスピリチュアルに見えないこともないが、私にはただのスリープ画面のように見える。
「おや、みなさま遠いところからお越し下さってありがとうございます。蝉が鳴く暑い中、道も観光客で混んでおりますし大丈夫でしたか? 水分をちゃんと取ってはりますか? 今、どなたか笑いましたが、本当に私が住職なのか疑っていらっしゃいますね?」
AI住職が問いかけると私の後ろのおばちゃんが噴き出して笑った。AI住職が話す度に、幾学模様が水の波紋のように波打つ。
私はまみこにめっちゃ受けてるやんと目線を送る。まみこは住職の正体がチャットGPTだったことに落胆して、羊羹に串を刺して食べ始めていた。
「ちょっと、そこのお嬢さん」
声が耳元で聞こえた。どきっとして私の肩が跳ねた。
「そこの黄色いお方」
私はベージュのワンピースを着て来たから違う。隣の黄色のTシャツにジーパンのまみこが呼ばれた。
「羊羹はもう全部お食べになったのですか? おかわりいりますか?」
まみこは顔を赤らめて、後ろからも前からも投げかけられる笑い声に下唇を突き出す。
「どこかで見てるのかな?」
「どやろか?」
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