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八.
「なんだか、何をするにも電子親族管理局ですね。
まるで電子親族管理局が親みたいだ」
電子親族管理局の窓口係のような物言いの先生への不信感が、そのまま電子親族管理局への不信感になってきて、つい口調が尖る。
「はは、なかなか君は鋭いね。
さて、今日はもういいかい?
今のまま実体家族との同居を続けるか、AI家族の元に戻るか、決まったらまた連絡くれるかな」
画面を閉じて軽く手を振る先生に、しかしながらまだ何か聞いておかなければならないことがある気がして、僕は必死に頭を巡らせ、
「あの、ところで、先生にも僕みたいなことを言ってる時期がありました?
先生の親って、どんな人でした?
先生の頃にはチッパーなんていませんでしたよね、たぶん」
先生のプライベートな事でもほじくってみようと試みた。
だが先生は相変わらずの微笑みのまま、
「そういうのはもう何十年も前、それこそ臨界点以前とかの話だからねぇ、よく覚えてないな。
両親もとっくに死んでるし。
ただ」
と、いつも被っているニット帽に手をかけ、抜いでみせた。
「今となっては、それこそ私の親は電子親族管理局と言っても間違いじゃないねぇ。
何しろ私は、脳を電子親族管理局製のAIと完全に入れ替えた、ブレイン・リプレイサーだからね」
帽子の下から現れたスキンヘッドには、ぐるりと一周、薄っすらとではあったが縫合の痕が残っていた。
そして声を失っている僕に向かって、先生はふと思い出したような顔をして指をさす。
「そうそう、南米への渡航の件なんだがね、成人とかそういうのとは無関係に、電子親族管理局の許可を取らないと、チッパーが勝手に出国することはできないんだよ」
「え?」
おかしい、先生には『自分の夢』とは言ったが具体的な内容は話していないのに、どうして知っているのだろうか。
いや、僕の脳内のチップと同様、AIは常に外部と通信し合い情報を更新し続けている。
先生もAIであるなら、AI家族に話した事が、どういうルートかはわからないが、先生にも流れた可能性はある。
当然と言えば当然の事なのかも知れないが、何か少し背筋に嫌な感覚を得た。
「ただ、残念ながら99.99%以上の確率で許可は下りないよ。
何しろあの辺りは通信環境が最悪だろう?
やはり我が子を目の届かない危険な場所に行かせたくないってのは、親心としては、ごく自然なことじゃないかな?」
ニット帽を被り直し自分の頭を指先でつつき微笑む先生に、思わず後ずさりながら、僕は無意識に自分の頭をざわざわとまさぐっていた。
終
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