二.

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二.

世は既にAIが人類の知能を超える臨界点(シンギュラリティ)を迎えており、その状況に最初は戸惑い抗ったりしていた人類もやがて認め受け入れるようになってから、早や数十年が過ぎていた。 そんな時代でも、食料、領土、経済、生態系など、世界にあらゆる問題は山積みであり、その解決に人口管理は急務とされていたため、人類はそれをAIに委ねることにした。 現在、ほぼ全ての国で人類は生殖能力を持たない。 生まれてすぐにそういうオペを施され、代わりに定期的に国に遺伝子を提供する。 管理しているのは世界政府内の、長官にAIを()えた人類生活庁、通称『人生庁(じんせいちょう)』。 今の世には不妊も無ければ望まぬ妊娠も無い。 大人になり子供が欲しい時には人生庁に申請し、諸々の条件をクリアして許可が下りれば、人生庁の保育局において100%確実で安全な人工授精が行われ、子を授かることができる。 正式にはこうして親になった者を『普通育児者』と呼ぶが、一般には生まれた子供も含め、レトロな出生方法を選ぶ者『レトラー』と称されている。 対して、こういう実体的な親や家族を持たない僕のような子供は『チッパー』と呼ばれる。 世界の人口バランスを正常に維持するために、AIは常にタイミングを見計らい、提供された遺伝子から両親を選定し人工授精を行っている。 受精した生命は、保育機の中で270日ほど生育した後、保育園へと移される。 その保育機を出る際、AIの家族をインストールした有機チップを脳に埋め込まれるため『チッパー』なのだ。 かつてAIによる人口管理が議論される中で、こうして機械的に『生産』される子供たちにも家族が必要だと提案したのは、AIだったそうだ。 で、保育機から『出産』してから、チッパーの僕はずっと脳内のAI家族と同居生活をしているわけで、別にそれが当然で普通の自分の家族であるため、レトラーと比べて違和感や優劣感があるとか不自然とかそういう事は無いのだが、ふと、チップがある限り一生同居し続けるのかな、なんて思うことはある。 僕だっていつかは大人になり自分の世界を生きるんじゃないのだろうか。 その時にも、いつでも家族が一緒なのか?
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