三.

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三.

「で、私の所に来たわけか。 はは、ミチル君もいよいよそういうお年頃ってことだね」 この白ひげにニット帽、白衣のお爺さんは、僕の主治医の市井先生。 チッパーには市井先生のような『電子脳外科医』の主治医が必ず付く事が定められている。 特段のチップ不良でも無い限りは、年に一度の健康診断でしか会わないのだが、何か相談があればいつでも対応してくれる。 「年頃、なんですかね。 とにかく、いったん離れて暮らしてみたいんです。 今後、自分の夢に向かって進んでいる最中も、ずっと賛否両論の家族会議が頭の中で行われ続けるのかと思うとさすがに辟易(へきえき)しないかなぁって。 このチップ、動作を止めるとか、いっそ一時的に外すことって、できませんか」 という提案を昨日家族のみんなにしたわけだが、予想通り、予想以上に、相当な大騒ぎが朝まで続いてほとんど眠れなかった。 「なるほど、至極まっとうな発想だね。 まぁ、そうだな。 結論から言えば、ご家族の方に少し静かにしてもらうことは、できるよ。 例えば、今、ご家族は何か言ってるかい?」 先生が優しい視線を僕の目から頭へと移す。 「えぇと、あぁ、あれ? 静かですね、誰も喋ってない。 こんなの、初めてだな」 どうしたのだろう。 みんなを(おびや)かすような提案をしたから落ち込んでしまったのだろうか。 「この部屋はチップへの停止信号を発生することができるんだよ。 チップの不具合でオペなんかしなきゃいけない時には、最初にそういう処置をするものだからね」 「あ、あぁ、そうなんですね、そうか」 家族が自らの意思で黙っているわけでは無いのか。 なんだかほっとした、が、同時に気が付く。 「じゃあ、もしかして、日常的にもこうしてチップを停止しておく方法があるんですか?」 僕の質問に、先生はニット帽の隙間(すきま)から指を差し込み額をかきながら、デスク上で半透明に表示されているSC(スマートコンピュータ)画面に触れた。 「方法はあるよ。 ただ君は未成年者だからね、AI家族を停止したまま生活しては特児法違反になってしまうんだ。 だから、人生庁の電子親族管理局に申請して許可が下りれば停止はできる、が、その際、電子親族管理局が決めた実体のある家族との同居が必須条件になるよ。 この申請画面からできるけど、どうする?」
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