五.

1/1
前へ
/8ページ
次へ

五.

初日の夕食時には盛大な歓迎会が行われ、夜は父親の提案でリビングでみんなで枕を並べて寝た。 お互いの事を和気あいあいと色々話しながらも、さすがに疲れた僕はいつの間にか眠ってしまった。 そして翌日から始まったレトラー家族との生活だったが、その何よりの感想は、意外にも、 「静かだなぁ」 だった。 家族揃ってせわしなく賑やかに朝食を済ませた後は、両親とも働きに出て不在、ユウキも学校、僕はみんなより少し遅れて出発し、これまで通りのチッパーの学校に通う。 クラスメイトに新しい生活の話をせっつかれながらも、おおむねいつも通りに終わった学校から帰宅すると、まだ誰も帰って来ていなかった。 雑然としながらも静まり返った広い家の中が、なんだかやけに不気味に感じられた。 やがて母親、ユウキ、父親が帰宅するとまた僕を囲んでパーティーの延長戦のような感じで盛大な夕食が始まったのだが、それが終わると今夜はさすがにみんなでリビングで寝るわけでもなく、母親は家事、ユウキは自分の部屋で宿題とネトゲ、父親はテレビを観ながら晩酌をしてそのままソファで眠ってしまった。 僕にも専用の部屋を用意してもらっていて、今日はもう皆と何かすることも無さそうなのでとりあえず引っ込んだのだが、とにかく静か過ぎて落ち着かない。 今までなら頭の中で誰かがずっと喋っていたため、こんな感覚に陥ったのは初めてで、何か言いようの無い不安を覚えた。 確かに身体的・精神的ぬくもりに包まれた実体のある家族生活のはずなのに、どうしてこんな気分になるのだろう。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加