七.

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七.

「なんです? どういうことですか」 立ったままだった僕は、首を伸ばしてそこに表示されている情報に目を走らせた。 『特別支援複合学校』 『普通出生児童と特別出生児童の区別なく、家族とのトラブルが生じた児童の保護を目的とした』 などの文字列が並んでいる。 「あぁ、いや、これはね、チップの不具合でAI家族が家族らしからぬ状態に故障した場合とか、実体家族でも現実に同様の危機的状況が生じた場合に、電子親族管理局に申請すれば、家族から隔離して専門員が保護者として面倒を見ながら、児童が一時的に独立した個人として生活できるっていう保護施設なんだけどね。 君はそういうことじゃないから入れないんだよ。 君のはただの思春期の自立心の芽生えみたいなものなんだからさ。 誰もが通る道だと思うよ、今この時代であってもね」 ニット帽の上から自分の後ろ頭を撫でて軽い笑顔を浮かべる先生に、何かふいに猜疑心、不信感のようなものを覚えた。 「でも、その話、こないだ教えてくれても良かったじゃないですか。 僕は別に実体家族と暮らすことが目的なんかじゃなかったのに」 「まぁ、君には関係の無い話だと思ったし、家族が邪魔臭くて家を出て好きなことをやりたいなんてのは、遥か太古から十代のお約束みたいなものだからさ。 すまん、適当に色々試して時間を潰したら、なんか(あきら)めて成人するまで元のAI家族と一緒に頑張ってくれるかなぁと思って」 もしかしてこの老医師は僕が子供だからって馬鹿にしているのだろうか。 僕のAI家族には祖父母がいないので、今までの暮らしで老人との関わりはこの先生だけなのだが、歳を取るとみんなこういう感じになるのだろうか。 「成人まであとたったの五年だろう? 五年ぐらいすぐじゃないか。 そしたら改めて電子親族管理局に申請してAI家族を休止して、大手を振って外の世界に一人で旅立つといいさ」 そう言いながら、先生は机上の画面に、五年後に僕が申請するであろう書式を表示した。
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