プロローグ

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 私は昔、ろくに物を食べられず、蔑まされて生きてきた元巫女。  親には見捨てられ、ご近所さんには邪険にされてきました。  生きている意味が分からなかった私が今、笑顔でいられているのは旦那様のおかげなのです。  黒い、腰まで長い髪を桜の簪でまとめ、耳飾りも簪とお揃いの桜。  旦那様は、桜がお好きなようです。  私へのお土産は大体、桜をモチーフとしている装身具が多いのです。  私は、旦那様が選んで下さったものなら何でも嬉しいので、喜んで身に着けております。  何時でも、どんな時でも。旦那様を感じることが出来るので、絶対に離しません。  旦那様が私に贈り物としてくれた耳飾りが、心地よい風に揺られ、鈴のような綺麗な音を鳴らします。  澄んでいる音を聴きながら空を見上げると、白い雲と共に鳥や、空を飛ぶ事ができるが、気持ちよさそうに空のお散歩を楽しんでいるのが見えました。 「華鈴(かりん)様、御屋敷の中でお待ちになりませんか? お体が冷えますよ」 「あ、鎌鼬(かまいたち)さん。わざわざご心配、ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。ほんの少しでも早く、旦那様をお迎えしたいのです」  空を見上げていますと、後ろから私を心配してくださる声が聞こえました。  振り向きますと、優しげに微笑む鎌鼬さんのお姿。  見た目は普通の、優しいおばあちゃん。  背中にはいつも、二つの鎌が背負われております。 「今日は、お久しぶりの旦那様とのお買い物ですもんね。楽しみで、落ち着いて御屋敷の中で待つなんて、出来ませんよね」 「うっ、は、はい……」  なぜ、今日は旦那様からの贈り物で身を固めているのか。  それは、これから待ちに待っていた、旦那様とのお買い物だからです。
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