優しい観客と最高の音楽

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恥ずかしながら、わたしには好きな男の子がいる。 彼は隣のクラスで、生徒会長で、みんなから人気があって、何もかもが完璧な人で。 いいところを挙げたらキリがない。それなら欠点を挙げてみる。でもその欠点さえ好きだから、加点しちゃって仕方がない。 そして恥ずかしながら、わたしは今、いじめられている。 理由は、彼に一番近い生徒会副会長だから。妬み、(ひが)みがひどくなって、物理的・精神的に攻撃され始めた。 男子はみんな傍観者。誰もわたしを責めないかわりに、誰もわたしを庇ってくれない。 それは生徒会長である彼も例外じゃなくて、直接相談したいのに、取り巻きたちが傍観者であるように仕向けている。 彼はきっとわたしの事情を知っているに違いない。 でも何もしない。動けないんだ。生徒たちの間に亀裂が入ってしまうと、来月の総会で通したい案を通せなくなる。うちの高校は女子が七割近い。女子全員に反対されたら、せっかく練ったスピーチも意味をなさなくなる。 どうしよう。 日に日に孤立していく。 どうしよう。 彼に会いたいのに、登校することがとても苦しい。 彼に会っても、話ができない。 諦めなきゃいけない恋なのかと、弱くて脆い自分に問いかけても、胸の中にもっと弱くて脆くて逃げ出したい別のわたしがたくさんいる。 いじめられたくない。だけど立ち向かうより泣いてしまう。泣いてしまえば笑われる。笑われないと、その場のいじめは終わらない。たとえその場しのぎでも、ひどい言葉を浴びせられるのは辛くて痛い。 助けて。誰か、わたしの盾になってよ。 助けて。誰か、わたしの声を聞いてよ。 きつく目を閉じたら涙がこぼれた。 そのとき、背後から誰かに声をかけられた。 「亜矢(あや)、泣いたらアカンよ」 振り向くと、(あさ)()先輩が立っていた。 元生徒会長。女子たちはみんな、苗字の(おい)(かわ)ではなく、敬意と親しみを込めて麻美先輩と呼ぶ。この学校のカースト1位。わたしに生徒会の仕事を教えてくれた人。そして現生徒会長の彼の、憧れのヒト⋯。
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