23. 夢のような時間

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でもそれもまだ先の話だ。 少なくとも私とエドワード殿下との婚姻はまだもう少しだけ時間がある。 それまではロイドも変わらず、エドワード殿下の連絡係として、そして人質の監視も兼ねて、私のところへ顔を出してくれるはずだ。  ……残りの数ヶ月がますます貴重なものに感じるわね。今日も忘れられないとっても良い思い出になったわ。 その時ふと前世で読んだ童話であるシンデレラを思い出した。 家族から虐げられていた女の子が、ある夜魔女の魔法に助けられ舞踏会に繰り出し、王子様に見初められて魔法が切れるまでのほんのひととき王子様とダンスを楽しむのだ。 虐げられている女の子、限られた時間、舞踏会でダンスという点がまるで今の私みたいではないだろうか。 ()しくも、ちょうど二曲目が終わりを迎えようとしていた。 「夢のような時間はもうすぐ終わりね。まるでシンデレラの魔法が解けるみたい……」 思わず口からそんな言葉がこぼれ落ちた。 ほどなくして無情にも音楽は鳴り止み、私はロイドから体を離す。 すると、たちまち目をキラキラと輝かせた多くの令嬢にロイドは囲まれてしまった。 その様子を見て空気を読んだ私は、一人で元いた上座の席へ戻る。 上座からはフロア全体がよく見渡せるから、ロイドが令嬢たちに猛アピールを受けているのもよく見えた。 「ロイド様に踊って頂けて良かったですわね。ずっと座っていらっしゃる高貴な身分のアリシア様をお可哀想と感じられたのでしょうね。本当にロイド様は優秀なエドワード様の側近ですこと」 上座に戻ると、エドワード殿下がちょうど席を外していたようでマティルデ様が私に話しかけてきた。 その言葉には「あなたが王女でなければロイド様に相手なんかされないわよ」と言っているのが透けて聞こえる。 そんなこと言われなくても私だって十分理解していた。 「ロイド様と一度踊ったからと言って勘違いされない方がよろしいですわよ。あのロイド様の隣に立つのは皆に認められるような女性でないといけませんもの。誰が見ても美しいと思う愛される女性でないと。私はエドワード様のご寵愛を頂いていますから、ロイド様のお相手ができないのが残念ですわ」 まるで「私ならロイド様にふさわしい。誰にも愛されないあなたでは無理よ」と言っているマティルデ様の台詞に、眉を顰めてしまう。 この場にエドワード殿下がいないことをいいことに、彼女はかなり挑発的だった。 いつもなら気にも留めないマティルデ様の言葉が今日は胸に刺さった。 エドワード殿下がもし戻ってきたら面倒なことになるのは目に見えているから、彼女と言い合うつもりは毛頭なく、私はそのまま沈黙を貫いた。  ……ああ、本当に魔法が解けちゃったみたい。 マティルデ様の言葉を聞き流しながら、ダンスフロアで令嬢たちに囲まれるロイドを視界に入れ、私は心の中で呟いたのだった。
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