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 抱っこの仕方をなんとか伝え、四苦八苦しながら寝かせつけに成功した小牧の顔には玉の汗が浮いていた。クーラーの効いた室内なのに……って、風直撃は良くないな。  ベッド位置を確認すると、冷房の風からは外れていた。そういう知識はあるのか、はたまた偶然か。 「すみません、お茶しかなくて」 「おかまいなく、って言いたいところなんですけど、今日は暑いので助かります。いただきますね」  サクッと挨拶して事情を聞いて帰ろう。次に赤ちゃんが起きる前に。そう決意して、促されるまま椅子に腰かける。テーブルセットがあるということは、家族でここに住んでいるのだろうか。事前情報は名前と性別のみ。全部これから聞かなくてはいけない。面倒だ……と言えば怒られるだろうか。誰に? ……鶴本あたりに。  律哉が脳内会議している間に、小牧も自分の分のお茶を用意して向かいに座っていた。 「それで、あの……」  呼んでおいて何だが、何ですかという雰囲気。  律哉もさすがに脳内だけで話すのをやめる。 「ご連絡ありがとうございます。私、保健師の柳井と申します」 「あっ、小牧です」  はい、存じておりますよ。たぶん俺だって何回も名乗ってる。 「本日は保健センターへご連絡いただきありがとうございます。産後……出生後の赤ちゃんの様子を拝見したり、お悩みを聞いたりする新生児訪問というものがありまして、こんにちは赤ちゃんって聞いたことありません? それで伺ったのですが、小牧さん、お母さんは……あ、赤ちゃんにとってのお母さんですね、そのお母さんはどちらですか? 妊婦登録されていなかったようなのですが」  まじでそんなことがありえるのか、という思いでいっぱいだ。そもそも妊娠した段階で母子手帳を発行、妊婦として役所には登録される。  しかし「小牧」という苗字の登録はなかった。事実婚も視野に入れて同じ住所の人間も探したが、ヒットなし。  そうだ、テーブルセットがあっても小牧は一人暮らしだった。予備知識が増えた。全然嬉しくない。謎が深まっただけじゃないか。 「あの、信じてもらえないと思うんですけど」  細い毛質の髪をまだ汗に湿らせながら、小牧はコップを握った。よほど緊張しているらしい。 「信じますよ、大丈夫です」 「ありがとうございます。……あの、今朝、早朝にチャイムを連打されて飛び起きたら、元カノに赤ちゃんを頼むと押しつけられて」  ……は?  ちょっと待て。元カノに? 今朝押しつけられ?  なんだそれは。本当なのか? そんなことがあるのか?  ……こういう反応が読めていたから前置きしたんだな、はいはい。  いやでも、え?
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