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「立ち入ったことをお聞きしますが、元カノさんと言うからには別れていらっしゃる?」  シングルマザー的なものだろうか。一人で産んで世話は押しつけた? なくはないかもしれないが、彼女は彼女で別の保健師が担当しているはずだ。すぐにわかるぞ。  律哉も律哉で無意識のうちにコップを握りしめていた。 「はい、二年前に」  いや待て、ないわ。なくはないかもしれなくないわ。は? 待って俺これどんな話聞いてるんだっけ。突然預けられた赤ちゃんの話? いや、突然赤ちゃんを預けられた男の話か。 「……小牧さんのお子さんでは?」 「ないですね。会ったのも二年ぶりですし、彼女もう結婚してますし。それで急にそんなこと言われても困るんで断ったら玄関前に放置してどこかへ行ってしまったみたいで、今連絡をしようとしているんですが、つながらなくて。友人にも協力してもらっているんですが、まだ捕まりません」  この人は、落ち着けば理知的な人なんだな。  それで、早朝から昼過ぎの今まで一人で、突然やって来た赤ちゃんの世話をして憔悴しきっていたと?  いや、一人じゃなかったか。 「先ほどの『上司』は、普段から家に来てくださるんですか?」 「いえ、初めてです。気が動転したというか、とりあえず仕事には行けないなと思って連絡したら、友人が使わなくなったベビー用品を持って行くと言ってくれて、さっきまで看てくれていたんですが、さすがに仕事があるので。あ、役所に電話したほうが良いというのも、その上司から聞いて」  なるほど。今朝という割には服からベッドまで揃っていると思えば、その上司か。じゃあベッドの位置もその上司だろう。すごいな。電話しておいて小牧が用件を把握していなかったのもそういうわけか。謎が解けてきた。  この赤ちゃんは誰だ? という最大の謎を除いては。 「その上司の方は、これからも頼れそうですか?」 「いえ、さすがに申し訳ないです」  ですよね。うん、わかる。上司に物って頼みにくい。俺も鶴本が昇進してからは頼みづらくなった。 「では小牧さんは、他にご兄弟やご両親など……ご実家は遠いですか?」 「兄弟はなしで、実家は北陸です。……えっと」 「ああ、すみません。赤ちゃんのお世話は大変なので、誰か頼れる人はいないかなと」 「なるほどです。そうですね、そこまで任せられるような人は、残念ながら」  見た感じ俺よりやや歳下くらい。北陸から上京で独り身で真っ先に連絡したのが上司。友人はいるが踏み込んだ仲ではない、と。これから大変だな。有料で一時的に面倒を看てくれる施設もあるが、他人の赤ちゃんのために小牧がそこまでする義理はない――他人? 「小牧さん、警察には? 警察に届け出て元カノさんを捜索してもらいつつ世話を委託すればいいお話では?」  普通に育てるテイで話を進めてしまっていたが、扶養義務のない人じゃんこの人。慣れって怖い。小牧さんのこと父親だと思って喋ってた。  律哉が自分自身に戦慄する向かいで、小牧はゆっくりと首を振った。
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