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親の気持ち
準男爵は令嬢が思っていた様な意図は全く無かったらしく、娘を非常に残念で悲しい気持ちで見つめたのが分かった。
「シオキーナ、お前は、どうして」
「私は! ラグランジュ殿下の隣に立てる美しさも持っていますわ!」
確かに、その変なセンスさえ無ければ、それなりに美しいと言えただろう。
「シオキーナ!!
いい加減に黙りなさい!
殿下、どうか娘を寛大なお心で、厳罰は、どうかお許し下さい!」
頭を擦り付けんばかりに親が平伏して懇願しているのに、令嬢本人には全く響いていない様子だった。
それに対して、処罰云々の前に、事実確認をしなければ齟齬が生じているなら正したい、と僕には呟いた。
「廊下で話す事では無いだろう。
ただここではっきりさせたい事は、私に令嬢を迎える意志など最初から存在しなかった、と言う事を准男爵も認めて頂きたい」
「私は、殿下の愛を感じました!」
愛を感じるって、そこは既に妄想レベル。
「私は其方に発言を許した覚えはないがな。
大体どのような確信をもってそう話すのかも分からんが、父親である准男爵を差し置いて発言するなど、この時点でも大分無礼なのだが」
グランはその顔から笑いを消すことになる、衝撃的な言葉を聞いた。
「散策中のお優しい微笑み、慈しむように私を見てくださいました」
恍惚とした表情で語りだす令嬢に、周りはドン引きした。
特に、騎士たちはうわぁって顔で、グランを見ていた。
「殿下、失礼ながら、身から出た錆ではないでしょうか?
その、何も考えてませんって笑顔がいけなかったんですよ。
これの犠牲者が今までどのくらいいた事か」
結構日常的に起こっていたのか。
「む、ちゃんと考えていたが?
大体、感じた程度で私に非があるとは思えないのだが?」
ここまで酷い事はなかったが、と付け加えた。
「私を愛してると心で示してくださいました!」
これには父親を含めた全員が噴き出した。
「心、心って、心って聞こえるのか?
そんな魔法あったっけ?」
肩を震わせて、笑いを必死に堪えている騎士たちの一人が、魔法で聞いたって話なのか? というツッコミを入れてしまい、令嬢はさらに墓穴を掘ることになった。
「魔法なんて、そんな下劣な行為ではありません!!
殿下の目はそう語っていたのです!
魔力なんて関係ありませんわ!!」
いや、だから、それって、妄想だよね。
ツッコミどころ満載過ぎて呆れるやら、疲れるやらで腕に抱いてるリュシアンを見て、勘助じゃなくて、なんて言うんだっけ? と呟いてたら、それこそ心の声が聞こえる気がした。
「こう言う方は心の病気なのかもしれませんし、妄想と妄言を繰り返してる以上危険な思考を持ってると思われかねません」
廊下で話す事では無いと言いながら、大衆に公開する形で内容を暴露してる辺り、グランってすごいなぁって感心した。
「そこの勘違い令嬢に確認を取るまでもなく、私にそのような意志は無かった、この言葉を持ってカムント准男爵からの接触及び接近を禁じる」
グランも話が通じない相手に何を言っても無駄だと思ったのか、接触接近禁止を出して終わらせた。
「しかと、承りました」
「だがな、薬草に関しては心から感謝している。
民にとっては薬としての配合などを分かりやすくしてくれた上に、量産できる体制を整えてくれたのだから」
「有難き幸せでございます。
この馬鹿な娘は、修道院へ送り殿下の前に二度と近づけない事を誓います」
父親の言葉を聞いた令嬢は、狂ったように叫びそこから騎士と准男爵自ら彼女を連れて行くまで、ずっと叫んでいた。
「父親の心、子知らずっだったな。
人騒がせで困る」
その原因は、貴方の心無い笑顔のせいでしょうが。
騎士団もそう思ってるらしく、えぇー?って顔をしていた。
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