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確かめる事
廊下でのひと騒動後は、さすがに誰も近づいて来ることなく専用の休憩室まで無事にたどり着いた。
本当なら、休憩室でリュシアンの事を確かめようと思っていたんだけど、グランが一緒になったことで前世だの日本人だのってキーワードは使えなくなった。
リュシアンが前世持ちで、日本人だろうと言う仮説を立てて、グランの前でも違和感なく話しかけて確認するにはどうしたら良いんだろう、ってそればかりを考えていた。
「シアン、怒ってる?
私は潔白だよ! 他の令嬢とも令息とも、何も無かったって言えるよ!
誓いだって立てられる」
正直その辺は、既に中古な自分自身を考えると、何も言えるはずが無かった。
処女性善説では無いけど、あんな奴にって気持ちは今でもある。
多分、最後まで持ってしまう感情だと思った。
グランを愛すれば愛するほど、唯一無二で僕がグランにあげられるものだったのに。
それに同じ男として、こんな美形がこの年まで童貞とかって無いだろって思った。
「ねぇ、シアン、そんなに怒ってる?」
「え、あぁ、怒ってないよ。
ごめんね、グランの笑顔を好きにならないはずないじゃない。
だから仕方ない事だよ」
「そこは怒って欲しい。
シアンに愛されてるからこそ、怒って欲しいんだ」
それって、嫉妬されるのが嬉しいとか独占欲が愛情の現れとかそんなのだろうか。
「グラン、僕は貴方が側にいてくれるだけでも十分幸せなんだ。
それに嫉妬ばっかりしてたら、楽しい事も嬉しい事も通り過ぎちゃうんじゃないかなって思うんだ」
今ある幸せを掴んでいたいし、楽しみたいから。
「シアン、私がもっと楽しい事も幸せな事もあげるし、リュシアンの姉弟だって沢山作ってあげたいんだ」
その作る為の過程にはまだ挑戦してませんが。
「ありがとう、僕も、リュシアンを一人っ子にはしたくない」
勇気を振り絞って、言ってみた。
伝わってるよね、いくら何でも。
「私こそ、その気持ちが嬉しい」
よっしゃ!!
今夜こそ!
「うひゃ」
まるで会話が分かってるかのように、合いの手が入ったような笑いだった。
「グラン、ミルクを貰って来てくれない?
僕はおむつを替えるから」
グランは二つ返事でミルクを作ってもらうべく、厨房へと走って行った。
「さて、急いで話をしようか、ね、リュシアン」
「う」
絶対転生者でしょ。
リュシアンはまだ三ヶ月という赤ん坊の癖に、敢えて目を逸らしたりした。
「正直に答えて欲しいな、僕も転生者だから分かるし」
「う、ぶ」
うんうん、返事してる。
部屋のソファに寝かされて、リュシアンは精一杯手や足を動かして返事をしてくれた。
「じゃぁ、軽く質問ね。
日本人前提で、年齢は十代なら、うを一回、二十代なら二回、それ以上なら無言で」
「うう」
「二十代なのかぁ。
前世も同じ性別なら、一回、違うなら二回、ジェンダーレスなら無言で」
「う」
リュシアンは男性だったみたいだ。
「男性だったんだね。
僕は隠れ腐男子の三十代だったよ。
もしかしたら、腐男子って言うより、ゲイだったのかもしれないけど」
そう言うとリュシアンは目を見開いた。
「うん、誰ともお付き合いした事なくて、漫画とか小説の世界しか知らなかったよ」
「うう、ううん」
何か必死で訴えて来るけど、赤ちゃんの声帯も舌も機能的に無理だと思った。
「この世界はゲイとか腐男子には良い方だと思うけど、ノンケの男性にはちょっとキツイ世界かも」
そこまでで、グランが戻ってきたからこれ以上は聞けなかった。
でも、リュシアンが転生者だって事が分かっただけでも収穫はあった。
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