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訪問者
グランが凄い勢いで戻って来て、僕の隣に座ると、ソファに寝かされてるリュシアンを抱き上げて哺乳瓶を見せた。
「ん、温度も大丈夫。
大きくなって、母様を父様と一緒に守ってね」
前世二十代の男性しかもゲイかも、なリュシアンを見て、ちょっと気の毒な気もした。
僕が目覚めた時の屈辱が蘇ったからって言うのも有るけど、現実的に三ヶ月の赤ん坊はどうにもならないって知ってるからだ。
「母様は、父様に守ってもらうから、リュシアンはリュシアンの大事な人を守れるようになってね」
これは本心だ。
「うっううー」
ミルクを飲みながら、眉間に皺を寄せるリュシアンが可愛くて、ただただ、この子が幸せになれれば良いと思った。
「飲み終わったらゲップしちゃおうね」
慣れた手つきで肩口にタオルを置いて縦抱きにし、下から擦り上げる様に背中をさすると、大分男らしいゲップが出て思わず笑ってしまった。
二人して笑い合って、赤ん坊のくせにゲップの音を恥ずかしがってるのがわかるリュシアンが可愛くて仕方なかった。
「こんな事が幸せなんだね」
僕の中の幸せってハードルは低めかも知れなかった。
休憩室にノックが響き、案内と護衛でいた騎士が来客を告げた。
「失礼します。
ラグランジュ殿下に」
「私が貴様に会う程度で先触れなど必要なかろう、な?
ラグランジュ」
騎士を押し退けて横柄な態度で入って来たのは、僕も会うのは初めての第二王子だった。
「ドローズ兄上」
グランから兄弟仲の事は特に聞いてなかったし、自分の事でいっぱいいっぱいな時期ばっかりだったから、この第二王子の態度には不快感だけを覚えた。
当の本人は何も無いかの如く、シラっとしてるけど。
「ふははは!
その様な者と婚姻とは、本当に王位を降りたのだな」
「はあ、で?」
更に横柄で嫌がらせにも似た言葉に、グランは冷たく言い放った。
「茶番も大概にしないと、隠してある物が今頃燃やされてるかもしれませんね、兄上」
その言葉を聞いた途端、態度が豹変した。
「いや、いや、ごめん、ごめんって!
やーめーてー!!
お願い、私が悪かったから!
おふざけが過ぎました!」
「アキちゃん、でしたっけ?
白い神獣の人形」
「ひっ!
本当にやめて、ごめ、ごめんなさい。
アキちゃん、燃やさないでー!!」
これは、アレか? アレだな、うん。
オタクの大事なコレクションを人質に取られている、って事だろうな。
「そうですか、分かりました。
兄上も相変わらずお元気そうで、安心いたしました」
何も考えてない綺麗な笑顔で、儀礼的な挨拶をするグランだった。
「コホン、失礼した。
シアンの様な可愛い」
「シ、ア、ンー?」
「え? は?」
「サキちゃんて子豚でしたっけ?
アレ、今頃、丸焼きの人形に変わってますね、兄上」
「ゃ、やだやだ!
なに? なにがいけなかったの?!」
ははは、とグランは笑いながら、相変わらずネジがたりませんね、と言った。
「私の妻の名前もご存知ないとは、第二王子として恥ずかしくないですか?
仕方ないので改めて紹介します。
私のエルモア・シアン・ド・ラキュー魔法伯爵です。
分かりましたか?」
「だから、シ」
「兄上、次は何を燃やしますか?」
「ひぃ!
う、え、あ、んー?
あ! エルモア?」
ここでやっと、グランは満足そうな笑顔を見せた。
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