第二王子

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第二王子

「改めて、エルモアこれから宜しく頼む。  この子が甥っ子のリュシアンだな、可愛い子だ。  将来はかなりの美形だな!  私から二人へのお祝いは、其方らの屋敷に届けておいたから、楽しんでくれ」  傍から見たら普通、もしくは嬉しそうに笑っているように見えるグランだったけど、僕にはどうでも良いような表情にしか見えなかった。 「ありがとうございます」 「ラグランジュの喜ぶ顔がまた見たいし、贈り物の感想も楽しみだ。  それに今度会うときは、もう少し大きくなった甥っ子に会えるのを楽しみにしている」  その言葉で、グランが笑顔を少しだけ崩して、首を傾げた。 「あの話で兄上が出向かれるのですね?」 「そうなった。  テオドア兄上の体調が優れなくてな」  先ほどのオタクな顔はなりを潜め、真剣な表情を見せる第二王子はグランとよく似た皇族の顔だった。 「エルモア、どうかラグランジュと幸せに。  甥っ子の顔が見れて嬉しかった」  そう言うと、グランにハグをして、元気でと告げて退室された。 「ドローズ殿下は、どこかへ行くの?」 「……、シアン、隣国の公国より交換留学の申し出が来ているんだ」 「交換留学って皇族の方はみなさん成人されているじゃない」 「うん、でも学べることは何歳になっても大事だからね」  グランの言葉は違和感しかなかった。 「さっき第一王子が具合悪いようなこと、聞こえて来たんだけど。  それと関係あるんでしょ?」  観念したかのようにグランはため息をついて、公国が呪詛を仕掛けて来てると教えてくれた。  帝国が魔法国なら、公国は呪術国家で魔法とは原則が違う為、防ぐにも難しい部分があると言う事だった。  ただ、魔法の様に魔力量の多さで力が変わって来るようなものでは無く、呪詛を掛けるのは資質よりも運に左右されるほど確率が大分悪いと言う事だった。 「その低い確率に、一の兄上が掛かってしまった。  その解呪を条件に皇族の誰かを婿入りさせる、もしくは交換留学生として寄越せ、あわよくば向こうの者とうちの高位貴族と婚姻関係に持ち込みたい、と言うのが向こうの言い分のようだ」  第一王子は王位継承権がある為難しい、第二、第三王子らも継承権が欲しい訳では無いからと未婚だった。  グランは既に既婚者で除外。  仕方なく第二王子か第三王子と言う事に消去法でなったけど、第二王子が立候補したそうだ。 「解呪は公国じゃないと出来ないの?」 「やってみたさ。  正直、魔法ではどうにもならないと言うのが結論だ。  多分、シアンでも無理だろう。  そしてドローズ兄上がこんなタイミングで動くと言う事は、一の兄上の具合がさらに悪くなったと言う事だ。  公国の申し出をのらりくらりと躱して一年、その間に何度か解呪に成功したと思ったのだが、再び呪詛が繰り返されさすがに、兄上の体力が持たない」  公国が何故そこまで帝国の皇族を欲しがるのか分からなかった。 「同盟を組むには帝国にとって利益が少なすぎる、かといって属国にはなりたくない公国、そこで呪詛を掛けて見たら旨く行った、と言う所だろう。  帝国としては公国と交易はしても属国にするために戦争を起こす気もなかったんだが、相手はそうじゃなかったんだ。  帝国の皇族と繋がりがあれば、他の国からも同盟ではなく縁戚国として一目置かれ、脅威が減ると考えてるんだ」  身勝手としか思えないけど、実際、今でも戦場に出てる人達がいて、決して平和とは言い難かった。 「僕では本当に解呪出来ないんだろうか?  期待させるわけにはいかないけど、お見舞いに行かせてもらうわけにはいかないかな?」  皇帝陛下や皇妃様の心情はきっと苦しかったはずなのに、こんな風に喜んで迎えてくれてお式まで盛大にしてもらったら、出来る事があるかもしれないのに、諦めたくないって言うのが人だろう? 「シアンが、そう思ってくれるなら」  こんなに弱々しいグランを見たのは初めてだった。  僕はそんな彼の頭を胸に抱きしめて、大丈夫だよって囁いた。
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