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探り合い
怪しまれない様に僕らは一度披露宴会場である、庭園に戻る事にした。
会場にいる誰かかもしれないし、僕らが第一王子のお見舞いに行った事は伝わっている、と思っておいて警戒するに越したことはない。
元気になった第一王子は、披露宴に出たそうにしていたけど、鏡に映る幻覚で枯れ木の様な自分を見て、リュシアンがうひゃって笑ったのに気を良くされたから良かったけど。
リュシアンも分かっててやってくれたよね。
さすが中身二十代。
「エル、今夜と言わず早く犯人が現れないかワクワクしてるよ。
入って来たらきっちり見据えてやる」
「テオドア兄様、残念ですが……目にされる前に地下牢に直行なので、それは難しいかと」
「えー!?」
だって、向こう側から開けたらすぐ地下牢だもん。
ってやり取りの後、イマココ。
「ごきげんよう、ラグランジュ殿下、ラキュー魔法伯爵様」
儀礼的な挨拶を何度か受け、普通に接してくれてる貴族と、あからさまに笑う貴族もいたけど、ほぼ何事もなく過ぎて行った。
「第一王子の体調は如何でしたか?
今日の披露宴に出席できないのは残念でしたわね」
どこかの令嬢が、侍従を伴って前に立ち塞がった。
えーっと、もうどこから突っ込めば良いか悩む。
「残念がってましたよ。
でもうちの子も可愛がって下さいました。
私たちはこれで」
「まぁ、ペットと子供には勝てませんわ」
ムッ、うちねリュシアンは愛玩動物じゃないですけど!
「ふふふ、庭園は綺麗に手入れされているのに、相変わらず虫が多いな」
グランの目が笑ったていなかった。
このご令嬢はどこから僕達がお見舞いに行った事を聞いたのだろうか。
「ま、虫がいるんですの!?
怖い!」
と、グランに掴まろうとした手は空を切って、盛大に転がる令嬢が観衆の目に晒された。
「ひどい、酷いですわ!
ラキュー魔法伯爵さま、なんでこんな酷い事をされますの?!」
え、僕?
「どう言う意味ですか?」
「私、分かってますのよ! 虫に私を襲わせようとしましたわ!」
「襲うって、虫はいま」
「いたぞ、ここに」
パーンッ!!
「え?」
「あ、こっちにも」
パーンッ!!
無表情でグランは令嬢の頬を叩いていた。
「い、い」
パンッ!
「ひっ!」
パン!
「まだ、いるな」
「やめてぇ!!」
一応力加減はしているみたいで、令嬢の顔はそれなりに赤く腫れているけど、酷くは無さそうだった。
「何をなさるんですか!」
「私の妻が虫を使って襲わせたのであろう?
ならば、夫である私が責任を持って虫を退治してやろうでは無いか」
「退治するなら、ラキュー」
パーンッ!パンッ! パーンッ!
今度は力を込めたらしく、だいぶ腫れてる。
「責任を持って退治してやったぞ、其方の中の虫をな」
「ひっ!」
涙を流しながら、気丈にも立ち上がりカーテシーを取り、その場を立ち去った。
ある意味、強いなぁ。
貴族としての矜持だろうか。
「アレは、どこから私たちの行動を聞いたのか」
「それね、やっぱり執事じゃないかな」
怪しいのは執事、執事長が絡まないとなし得ない侵入だった。
そして、あの令嬢は僕らを探るキッカケにうまく利用されたんだろうけど、まさかグランが女性にも手をあげるとは、だっただろうな。
今までのグランなら極上の笑顔で対応しただろうけど、僕絡みで笑うわけないって知らない奴なんだな。
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