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頭の黒いネズミ
扉を地下牢に合わせて開けると、牢屋では囮の騎士たちが取り囲んでいた人物が予想していた人物とは異なっていた。
昼間グランから殴られた令嬢でもなく、従者としてついていた男性の顔をした小さな男だった。
この時あの秘密通路で見つけた足跡は彼だったのか、と納得した。
およそビル五階建てくらいの階段を登る体力が女性にあるとは思えなかったし、令嬢がいくら執事長や騎士団長の手引きがあったからと言って、易々と階段を往復できるとは思えなかったから。
そして昼間の騒動の時に何もしない従者で怪しいと気づいていたのに、彼が侵入してくると思わなかった理由は、所謂、上げ底ブーツだったらしく身長があまりにも違っていたからだった。
そこまで慎重に偽装していた彼は、地下牢に入って囮の騎士たちが問う質問に誤魔化しながら躱していたようだけど、僕らが現れたら観念したらしくこの騒動のあらましを喋り始めた。
「君、昼間の令嬢の従者だよね」
「はい……、私が全て」
「違和感しかないんだが」
グランが彼の答えを遮って、茶番だ、と言い捨てた。
「お前が主犯なら、昼間あのように絡んで来る令嬢を止めたであろう?
しかも私たちが第一王子を見舞いに行った事も掴んでいるようであった」
「そ、それは」
「何を隠している?」
「な、なにも、私が一人で」
「首を絞めたと?」
「!、は、い」
どう見ても彼が自分だけの考えで動いてるとは思えなかった。
「そうか、ではお前の家族も全て処罰を受けてもらう事になる。
皇族に手を出したのだから当然、全てが対象だ」
「そんな!! 私一人の罪です!!」
「都合の良い処罰は無いんだよ。
君の稼ぐお金がどこから出て、誰使うのか考えたら分かると思うけど。
あの令嬢が無分別に罪を犯したのか、本当に何の理由もなく君が罪を犯したのか。
その罪はちっぽけな対価で全てを失っても構わない程、重要だったの?
何も知らずにそのお金を使ってたから、罪が無いと思ってるなら間違いだよ。
普通の対価以上の金額を手にするって事は何かに気づいている、それが分かっていても蓋をして見ないふりをしたのなら、同じ罪を背負ってるんだよ」
「う、うわぁぁぁ!!!
やめてください、家族は何も知らないんです!」
「では、取引をしよう。
全て、隠すことなく話してくれたなら、減刑を約束しよう」
グランが提案をすると、漸くすべてを放し始めた。
「一年ほど前にお嬢様は養女として引き取られて来ました。
その時は公国語をしゃべり、向こうではとても高い地位の娘だったと聞いています。
従者として三人が選ばれました。
今思えば選び方も変でした。
大きい人、お嬢様くらいの人、そして小さい私でした。
私だけが特別なブーツを履かされ、背丈をお嬢様よりちょっと高いぐらいになるように調整されました」
どこから来た養女なんだろうか。
公国出身と言う事だけは確かなようだった。
「それから半年は帝国の貴族教育が始まり、私達従者も舞踏会やお茶樹で付き添うマナーを覚えさせられました。
そしてデビュタントに参加するべく、皇室の舞踏会へ来た時にお嬢様は皇宮の執事長とした親し気にお話しされていました。
何かを合図するように下かと思うと、私は執事長から呼ばれ秘密通路から上がるように言われました。
行かされたのは皇太后様のお部屋で、そこで渡された枕カバーと魔道具のランプでした」
あの秘密通路は、皇太后の部屋にも繋がっていたのだと、この時知ることになった。
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