皇太后

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皇太后

 秘密通路の扉がまだ作動した。  何も無い空間がいきなり開いて、頭を出したのは執事長だった。  地下牢に出てくる寸前で扉を閉めて、戻られてしまったけど、顔をしっかり確認させて貰ったし、通路を塞ぐくらいは僕が魔法でどうにかなるし、空間を曲げてこの地下牢に誘導するのも容易かった。  ドン! 「っつ、」 「こんばんは、執事長。  こんな時間に兄上に何の用ですかね」 「ラグランジュ殿下、私はただ使用人専用通路を通っていただけですが」  執事長はここに来てまで、惚けた。 「使用人専用通路は、直接皇族の部屋には繋がっていないんだよ。  つながっている秘密の通路、それは非常時の退避通路しか無いはずなんだ。  執事長が知っているのは当たり前だけど、使用は出来ない。  執事長ともあろう人が、まさか知らなかったはずは無いよね?」 「い、いえ、それは」  言い訳が尽きそうになると、口を閉ざし膝をついてただ下を向いた。 「誰に忠義を尽くしているのか、話してくれないか?」 「……」  グランは少しだけ辛そうに笑うと、執事長に自白魔法をかけた。 「さあ、話してくれ」 「皇太后様が先代の皇帝陛下と不仲だった為、いまの陛下は側妃が生んだ第二皇妃の子だったのを酷く嫌い、帝位に就くのを阻んでおりましたが結局は帝位に就きました。  皇太后と言う地位に就かれた際に、公国の宰相と手を組み向こうの王太子を娶らせる事で、公国での地位も、帝国での地位を盤石なものにとお考えでしたが、公国の裏切りが発覚した事で皇太后様は失脚されました。  皇太后様は、本当のご両親から見捨てられたのです」  本当の両親て事は、皇太后は公国の人? 「皇太后は公国人だと言うのか」 「はい、帝国で養女になり、先代皇帝陛下に嫁いで来られました」 「お前は何故それを知る?!」 「私は、歳の離れた弟になります」  誰も声を出す事ができなかった。   「なぜ、裏切られた公国にまた与するのか」 「先代陛下が裏切り続けた結果、姉は心が壊れたからでございます」   声色が太く、低く変化した。 「裏切り続けた?」 「はい、姉を愛すると誓い、凡庸に暮らす公国から身勝手に連れ出し、皇妃にまでしておきながら、側妃をわずか数日で娶られた事を裏切りと言わずに何と言いましょう?  側妃を皇妃に出来ない理由が、他国の奴隷であった為、どこの養女にも出来なかった。  唯一、側妃であれば身分は問われません。  ただし皇妃を迎えた後になりますが」  酷い、と僕は思った。  自分の愛する人をどんな手段を使ってもそばに置きたい、守りたい、その気持ちは理解できる。  でも、こんなやり方は無いよ。  お飾りでも良いと納得していない。  愛すると誓って、知らない国に連れてこられ、こんな仕打ちはないよ。 「っ!! 恨まれて当たり前、だ。  皇族の沼の中には隠さねばならない事は多くある。  だかしかし、これは国でも、皇帝でもなく人のエゴではないか……」  グランがやっとの思いで吐き出した言葉は、先代皇帝陛下に対するものだった。
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