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「ふぅ、やれやれ」  幽霊だった。  僕は何も手伝ってなんかいなかった。 「さて、シアン、浄化をしてくれるか?」 「はい!」  やっと役に立てる、そう思って綺麗さっぱり悪いものがない様にイメージして浄化魔法をかけると、皇太后様は咳き込んだ。 「ゴフ、ゴホッ」  びちゃっ!  赤黒い血を吐き出して、倒れ込んだ。 「皇太后様!! 今治癒を!」 「よい、このまま」 「ダメです! 母上!」  割って入って来たのは皇帝陛下だった。  騒ぎを聞きつけて来た様だった。 「お願いだ、母上を助けてくれ!」  絞り出す様な皇帝陛下の言葉に、もちろんと答えて治癒魔法を使った。    治りが遅い。 「先程、言うたであろう」 「呪詛返し」 「そうだ、恨み言も守るための事でも原理は同じ。  使った力の倍、返されたのだ」 「母上! まだやっていたのですか!  政的な事から退き、ゆっくりして欲しかったのに! だからテオドアの事も知らせない様にしていたのに!  分かってるんです、何もかも隠して自分を悪者にして!  でも泣いてるって、知ってます!  母上、私が母と呼ぶのは貴方だけだ、だから、だから」  こんな人を国の犠牲になるばかりにしちゃダメだ。  呪詛返しの力より、さらに大きな力で治癒、さらに大きい力で回復を同時にかけて、皇太后様の呪詛返しと力比べをしてやる。 「ああ、シアン、これが金色の魔法使いのちからなのか」  こんな状況なのに、あの慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。 「母上、もう、大丈夫ですよ」 「皇帝陛下とあろう者が、泣くでない。  私が逝くのが少し先になったからとて、いつかは逝くのだ。  予行練習が出来たな」 「馬鹿な事を言わないで下さい」 「シアンよ、らありがとう。  このまま逝ったら、先代がその辺にまだ居たかもしれん。  死んでまで纏わりつかれるのも関わるのも御免じゃ」 「皇太后様、僕らの子、まだひ孫のお世話ができますよ」 「年寄りをイジメおって」  皇太后様はすっかり回復したけど、皇帝陛下が離さないので、後はお任せした。  第一王子も、駆け付けた医者が診て、問題なく命に別状は無かった。  騒動は一件落着して、公国へは呪詛ではなかったが解呪できたから、皇族の交換留学の話は無くなることを告げ、今後呪詛を使った事が分かれば戦も止むなしと宣言した。  執事長、従者、令嬢、それを受け入れた家門にはそれぞれ罰が与えられ、執事長は降格処分になり皇太后様の監視下に置かれる事になった。  家門の貴族は加担した罪により帝都から地方へ蟄居、従者はクビ令嬢は公国へ退去、と血が流れる事はなかった。  甘い処罰と思われたが、執事長の暴走は姉を思った事の暴走であり、元はと言えば先代がしでかした事が発端という事で、皇帝陛下は罪に問いたく無かったが、それでは秩序が保てないという事でこの程度になった。  やっと終わった。 「早期決着とは言え、三日もかかってしまった。  初夜はバタバタし過ぎてお預けだし、今夜こそ!」  グランが宣言した。  
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