来訪者

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来訪者

 こんな時は、侍従の一人もしくは執事の一人でも雇うべきだと思うけど、家族以外の誰かが家にいるのは慣れないし。  だって元々日本でサラリーマンやってるだけの超底辺、庶民も庶民、それこそアイスの蓋舐めちゃう系だからね。  グランはリュシアンを抱っこしたまま玄関へ走って行くと、来るはずの第三王子を出迎えに勇んでドアを勢いよく開けていた。  ガチャ 「兄上!   って、あれ?」 「グランどうしたの?」  後ろを追いかけて玄関で立ち尽くすグランの前を覗き込むと、大分若い子が立っていた。 「あれ、小さい頃の兄上がいる」 「小さく無い!」  若いだけで小さい頃のはちょっと語弊があるかと思われた。 「ラグランジュよ、久しぶりの再会の一言がそれか?」 「ごめん、ごめん、まさか全く成長してないとか思わなくて」 「悪かったな、成長期は終わっとるわ!  それに身長が伸び悩んだだけで小さい頃の身長よりは伸びたわ、たわけ」  どことなく、皇太后様を彷彿とさせた。 「まあまあ、入って、入って!  うちの奥さんと長男を紹介するから、ね!」  確かに、グランや他の王子の高身長と比べたら小さいけど、僕と同じ、いや、ちょっと低いかな。  それに美形の皇族の中で、可愛い系と言うかハムスターみたいな感じがする、中身皇太后様の男性版みたいな人だった。  インスパイアしてるのかねー?  グランが第三王子を家の中へと連れて入って改めて挨拶をした。 「お初にお目にかかります。  帝国の第三の太陽、第三王子殿下にエルモア・シアン・ラキューがご挨拶申し上げます」  膝をついて口上を述べると、僕に続いてグランが同じく挨拶をした。 「ふむ、ラグランジュよ、本当に其方は結婚したのだな。  私は知らされておらんが」  フンッと鼻を鳴らして、僕を睨み付けていた。 「兄上が旅立たれて、父上からも一の兄上も止めたので、お知らせしていませんでした。  本来なら一番にお知らせし、祝杯を開けたかったのですが」  溜め息と共に厳しい口調で、グランにリュシアンを僕に預けるように言うと、その瞬間、頬を平手打ちした。  パンッ! 「馬鹿者が!  テオドア兄上の為にこの様な者と婚姻し、剰え血の繋がりのない子を実子と公言するなど! 愚か過ぎる!」  この言葉をリュシアンが理解出来るのを知っているのは、僕だけで腕に抱いたリュシアンを見ると、目を見開いてグランと第三王子、そして僕を見上げた。 「兄上でもその発言は許せません、誰が認めなくても私がリュシアンを息子と認めているのです。   そして、お祖母様である皇太后様も、両陛下も、貴方以外の兄上達も家族だと認めているのです」 「はっ! 笑わせるな!  金色の魔法使いの力が皇室にはいるからだろう! それが無ければこの程度の者達が」 「うぁあああん!!  うぎゃああああ!」  言葉を遮る様にリュシアンが泣き叫んだ。 「煩い! 黙らせろ!  馬の骨の不名誉な男の子など、皇室に入れるわけにはいかん!  血が穢れるわ!」  グランは咄嗟に第三王子に殴り掛かろうとしたけど、それを魔法で止めた。  魔法を無意識に使っていた僕は、グラン以上に怒りしかなかった。 「グラン、僕は離婚でも良いから、これからする事を許さなくて良いからね」  金色の光は怒りの意志を持って第三王子を締め上げた。 「ぐっ、貴様、本性を出したな!?」  僕の怒りに引き摺られる様に、リュシアンの怒りも引き出されその魔力を現した。  銀色の光は、金色に絡まると綺麗な魔法陣を作り出した。 「ええ、僕の事はどうでも良い。  でもね、リュシアンは僕の勝手で産んだ子なんです。  でも、貴方の血が如何程素晴らしいと言うのですか?  皇太后様の口調を真似てみたり、それこそ、ご自分で氏より育ちだと理解されているからでしょう?  それに、私が金色を持つ魔力にリュシアンは銀色の魔力を持つようですから、私たちは貴方の脅威でしかない相手となりましょう。  私は二人で他の国へ行き、貴方を潰す為なら何でもしますよ」  僕の魔法で動きを封じられてるはずのグランが、その戒めを力づくで解くと僕達を抱きしめた。 「ダメだ! 絶対にダメだから!  シアンは私の奥さんで、リュシアンは長男だから!!」 「うー!! あ、う、ぶ!  ぶ、ふ、ふ、だ、け、ん、な!!」  え? ふざけんな、って言った? 「かあ、たま、な、か、す、」  リュシアンが必死に口を動かして、組み上げられた魔法陣は第三王子を包むと、まるで紙屑を丸める様に小さくなって、とうとう手のひらサイズになった。  金と銀の光が消えるとそこには、キンクマハムスターっぽいのがちょん、といた。
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