103人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
リュシアンの演技力
「リュリュたん! 一体何があった?!
じーじがリュリュたんを泣かした輩をぶっ飛ばしてあげるからの、安心せい!」
「エル、エルも泣いてるじゃない!
ラグランジュ、お前何したんだ?
返答次第では処刑台へ行く覚悟があるんだろうな?」
グランは床にいるキンクマハムスターの第三王子の首根っこを掴んで、ぶらーん、とみんなの前に突き出した。
「こいつ! 三の兄上がシアンとリュシアンを侮辱し、酷いことを言って、そして、そして、くっ!!
リュシアンを不名誉な男の子供で、皇室の血が穢れると」
グランが半泣きをしながら説明しても、目の前のキンクマハムスターを見ても、第三王子とは思えない彼らは、ポカーンとしていた。
「あー! あー!
うああん、あーたま!」
リュシアンは陛下の胸に頭をグリグリして、泣きながらキンクマハムスターに怯える様な表情をして見せた。
二十代の中身で、凄い演技力を見せるリュシアンの意図を理解したのは、僕だけだった。
「僕のことだけなら、良いんです。
実際、平民で勝手に妊娠してリュシアンを産んだんですから。
でも、リュシアンは愛されて育つ権利は持ってるんです! 誰かに穢れてるとか、蔑まれなければいけない様な子ではありません!
魔力も銀色で、僕と遜色ないくらい強かった! なのに!」
「あい、分かった」
「うー、うー、えっえっ、ひっく、あーたま!」
陛下の腕から僕へと腕を伸ばして、リュシアンが戻って来た。
誰も三ヶ月強の子供がこれだけの発声と、動きをする事に疑問を持たなかった事が救いだった。
「ラグランジュ、貴様は何をしておった?
愛する者をここまで侮辱されて、何をしておったのだ!!」
「このネズミがフロナリスだと言うのね?
まあ、可愛らしい事、そして愚かだ事」
皇妃様は扇の先でぶらんとしたハムスターのお腹を突くと、潰されても致し方無いわね、と呟いた。
「何でだよ! 私だけを悪者にするのか!
テオドア兄上が瀕死だと言うのに、こんな奴らを構ってボケてる癖に!
私がどれ程の思いで解呪方法を探して回ったと思ってるんだ!
私だって、私だって、兄上の為に」
キンクマハムスターの目から大粒の涙が流れた。
「だからと言って、血が穢れるなど。
私たちは既に奴隷の子孫であり、国に害を成した側妃の血を持つ以上、平民より悪いと思うけどね」
「テオドア兄上、お体は?
呪詛の原因が分かったと言う伝文で急いで戻る途中、ラグランジュの婚姻を知り、私だけが知らされていなかった事に愕然としました!」
ハブられたと思ったってとこか。
「貴方の性格がそれだからよ、フロナリス。
思い込みだけで突っ走って、学者面しながら視野が狭くて頑固で、外身も中身も子供だからよ」
皇妃様が容赦ない言葉を投げつけていた。
「私が子供だと言うのですか!?」
「そうよ、その歳になっても分別が無い、言って良い事も悪い事も区別がつかないなんて、リュリュたんより子供よ!
こんな小さな赤ちゃんですら母親の為に泣いて怒れるのに、貴方は何なのかしら?
兄上の為にって言ってるけど、お祖母様が止めるのも聞かずに出て行って、未だに解決策も無いままじゃない」
「酷い、私だって探し回って」
「そうだね、探してくれていたけど、この体を見て分からないかい?
エルが不調の原因を突き止めてくれたんだ。
そして怪異は先代陛下の霊が、お祖母様に未練があって引き起こしていた、そして、そのお祖母様も助けてくれたのが、エルなんだよ」
「そんな、そんな事知らない、知らなかった」
「話そうとしても聞いてくださらなかったじゃないですか!」
グランも怒りながら、第三王子フロナリスに文句を言った。
「でもね、フロナリス、私たちは貴方の行動力に感心もしているわ。
だけど、今回ばかりはこの母も許せないわね。
リュリュたんを泣かせるなんて!」
しばらくネズミでいなさい、と籠に入れられて、食べる物もひまわりの種だけよ、と言われていた。
最初のコメントを投稿しよう!