リュシアンの演技力

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リュシアンの演技力

「リュリュたん! 一体何があった?!  じーじがリュリュたんを泣かした輩をぶっ飛ばしてあげるからの、安心せい!」 「エル、エルも泣いてるじゃない!  ラグランジュ、お前何したんだ?  返答次第では処刑台へ行く覚悟があるんだろうな?」  グランは床にいるキンクマハムスターの第三王子の首根っこを掴んで、ぶらーん、とみんなの前に突き出した。 「こいつ! 三の兄上がシアンとリュシアンを侮辱し、酷いことを言って、そして、そして、くっ!!  リュシアンを不名誉な男の子供で、皇室の血が穢れると」  グランが半泣きをしながら説明しても、目の前のキンクマハムスターを見ても、第三王子とは思えない彼らは、ポカーンとしていた。 「あー! あー!  うああん、あーたま!」  リュシアンは陛下の胸に頭をグリグリして、泣きながらキンクマハムスターに怯える様な表情をして見せた。  二十代の中身で、凄い演技力を見せるリュシアンの意図を理解したのは、僕だけだった。 「僕のことだけなら、良いんです。  実際、平民で勝手に妊娠してリュシアンを産んだんですから。  でも、リュシアンは愛されて育つ権利は持ってるんです! 誰かに穢れてるとか、蔑まれなければいけない様な子ではありません!  魔力も銀色で、僕と遜色ないくらい強かった! なのに!」 「あい、分かった」 「うー、うー、えっえっ、ひっく、あーたま!」    陛下の腕から僕へと腕を伸ばして、リュシアンが戻って来た。  誰も三ヶ月強の子供がこれだけの発声と、動きをする事に疑問を持たなかった事が救いだった。 「ラグランジュ、貴様は何をしておった?  愛する者をここまで侮辱されて、何をしておったのだ!!」 「このネズミがフロナリスだと言うのね?  まあ、可愛らしい事、そして愚かだ事」  皇妃様は扇の先でぶらんとしたハムスターのお腹を突くと、潰されても致し方無いわね、と呟いた。 「何でだよ! 私だけを悪者にするのか!  テオドア兄上が瀕死だと言うのに、こんな奴らを構ってボケてる癖に!  私がどれ程の思いで解呪方法を探して回ったと思ってるんだ!  私だって、私だって、兄上の為に」  キンクマハムスターの目から大粒の涙が流れた。 「だからと言って、血が穢れるなど。  私たちは既に奴隷の子孫であり、国に害を成した側妃の血を持つ以上、平民より悪いと思うけどね」 「テオドア兄上、お体は?  呪詛の原因が分かったと言う伝文で急いで戻る途中、ラグランジュの婚姻を知り、私だけが知らされていなかった事に愕然としました!」   ハブられたと思ったってとこか。 「貴方の性格がそれだからよ、フロナリス。  思い込みだけで突っ走って、学者面しながら視野が狭くて頑固で、外身も中身も子供だからよ」  皇妃様が容赦ない言葉を投げつけていた。 「私が子供だと言うのですか!?」 「そうよ、その歳になっても分別が無い、言って良い事も悪い事も区別がつかないなんて、リュリュたんより子供よ!  こんな小さな赤ちゃんですら母親の為に泣いて怒れるのに、貴方は何なのかしら?  兄上の為にって言ってるけど、お祖母様が止めるのも聞かずに出て行って、未だに解決策も無いままじゃない」 「酷い、私だって探し回って」 「そうだね、探してくれていたけど、この体を見て分からないかい?  エルが不調の原因を突き止めてくれたんだ。  そして怪異は先代陛下の霊が、お祖母様に未練があって引き起こしていた、そして、そのお祖母様も助けてくれたのが、エルなんだよ」 「そんな、そんな事知らない、知らなかった」 「話そうとしても聞いてくださらなかったじゃないですか!」  グランも怒りながら、第三王子フロナリスに文句を言った。 「でもね、フロナリス、私たちは貴方の行動力に感心もしているわ。  だけど、今回ばかりはこの母も許せないわね。  リュリュたんを泣かせるなんて!」  しばらくネズミでいなさい、と籠に入れられて、食べる物もひまわりの種だけよ、と言われていた。
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