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私はその母の反応に少しばかり照れたように頬を赤く染める。
「おそらく…………。いいえ、間違いないわ。その胸のドキドキの正体はズバリ恋心よ」
母は明るい口調でそう言った。
「恋心?」
私はその言葉を耳にしたことは一度もなかった。つまり初耳だ。それもそのはず。私自身、淡い恋心を抱くことなど、当然のようになかったからだ。
「説奈はさ、小説で青春ストーリー系好きでしょ?だから前にも言ったけどそういうの一回、現実で経験してみたら?その方が説奈の人生、絶対良くなるから」
そう明るく言って母は緑茶を一口飲む。
確かに青春ストーリー系の小説は私の中でも大好きなジャンルだ。でもそんなキラキラとして太陽のように眩しい現実をこんな私が経験していいのだろうか。いや、よくない。私はそんな現実を経験していい立場じゃない。
でも、もし本当にそれで私の人生が少しでも良くなるなら。
「本当?」
私は思いきって母の言葉を信じることにした。自分の人生を変えたいという気持ちはあまりない。あるのはつまらないっていう感情だけ。私の心はつまらないという言葉だけで終わると何だか寂しい。私はいつの間にかそう思っていた。
「騙されたと思って信じてみて。母さん、応援してるから」
そう言って母は席を立ち上がり、緑茶が入っていた湯飲みを持ってキッチンへ向かった。
騙されたと思ってか。そういうのもたまにはいいのかもしれない。そう思ってから私も席を立ち上がり、母が食器洗いを始めたのでそれを手伝うことにした。
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