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「久しぶり、朔」
「……どうした、里麻?」
オープン前のカフェに現れたのは元カノという名称の女。カウンター越しに見つめ合うだけで2年前にすぐに戻れそうだと感じたのは俺だけだろう。
この内田里麻に未練も心残りもある俺だが、先日人づてに、彼女が結婚すると聞いた。二度と会えないのかと思いながら寝て起きたここ数日が一瞬で色づく視線を受け止め、彼女が現れた真意を探ろうとする。
「朔にお願いがあって来たの」
「結婚式のスピーチなんかは御免だが?」
「……」
「俺が結婚を知っていたのが不思議か?」
「いえ、全く」
一瞬、青白く見えた顔を下に向けてバッグに手を入れた里麻は
「これを朔に預かって欲しいの」
と黒いUSBメモリをカウンターの上に置いた。
「預かるのは簡単なことだな」
「ありがとう」
「預かるとは言ってない」
「…お願いします」
「内容は?」
「言わない」
里麻は口元をきゅっと引き締め、ガンコな魅力の片鱗を見せた。
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