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「っ…外は…歩かないで欲しいけど…電車にも乗るのに心配だよ」
「そう?じゃあ、このマンションだけにするね。で?」
心配だよ、と言いながら一歩部屋へ入って来た賢人に向いた足を私がさらにゆっくり組みかえると、彼は凝望を隠さず喉仏を大きく動かした。
「里麻…」
掠れた声で私を呼んだ彼はドタドタとその場に膝をつく。
「ごめん、里麻…本当に悪かった」
そう言って手も床につき、頭を下げた賢人に
「頭を上げてよ、賢人。別に私は賢人にこんな風に土下座して欲しいと思っていないわよ?」
と穏やかに本心を告げる。土下座したって事実は消せないのよ。
「俺の謝罪も不十分だったと思う。里麻は毎日食事の用意もしてくれて、母さんたちとも仲良くやってくれて、俺とも普通に話してくれて…感謝しかないんだ。里麻と離婚ありきでない生活をしていくから…ちゃんと夫婦として…」
食事ねぇ…大変なのよ。賢人が‘出汁のいい香り’って言って帰ってくるでしょ?そりゃ、昆布とかつおのいい香りでしょうけれど、あれは私用に小分けにして冷凍してるのよ。賢人の食事は化学調味料と市販だしで味付けしているから失敗もなく美味しいでしょ?作り分けって面倒だけれど、私は期限があるから自分で決めたように進んでる。離婚ありきでないって…無期限でこんなこと出来ないわ。
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